細菌は様々な環境で生育するために転写、転写後、翻訳後等の各段階で遺伝子発現を適切に制御する必要があり、その機構を理解することは細菌感染症の抑止に重要である。これまでに細菌における転写後調節を司るsmall RNA (sRNA)と同様に、一部のmRNAの3´UTRが遺伝子発現を調節する機能を持つことが明らかになった。本研究では、サルモネラにおいてmRNA塩基配列から推測された複数の機能性3’UTRを同定し、それらの機能を解明することを目的とし、機能性3´UTRと塩基対形成するsRNA、mRNA、tRNAなどの転写産物のペアを新規RNA-seq法により網羅する。 サルモネラにおいてグルタミン合成酵素遺伝子glnAは病原性発現に重要であることが知られている。サルモネラではglnA mRNAの3´UTRはRNase Eによって2種類のsRNA GlnZ1とGlnZ2をプロセシングすることを明らかにした。GlnZの標的mRNAを海外共同研究者が実施したサルモネラにおけるRNA-seq解析の結果を利用して探索した。GFP翻訳融合体の蛍光強度を蛍光マイクロプレートリーダーを用いて定量解析し、sucAをはじめとする複数の標的mRNAが実際に転写後調節を受けることを実証した。申請者は2022年9月にドイツに滞在し、研究成果について議論した後、2022年11月にeLifeに論文を発表した。また、2023年4~6月にはドイツに滞在し、コレラ菌から新たに複数の機能性3’UTRを同定し、機能解析を行った。現在も共同研究を継続し、論文投稿準備中である。 新型コロナウイルス感染症のパンデミックのため、計画当初よりも渡航期間を短縮せざるをえなかったが、研究を完了した。
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