研究課題
本研究では、主にin vitroで解析したDPYSL4の酸素消費、細胞内代謝変化、抗腫瘍効果をin vivoへ拡大して、観察する目的でDPYSL4のストレートノックアウトマウスを作成した。DPYSL4のストレートノックアウトマウスを用いた報告はこれまでにはなく、イントロン2とイントロン3にloxP配列を挿入するためのターゲットベクターを作成し、BL6系マウスES細胞からノックアウトマウスを作成した。一方、大腸がん細胞株を用いたメタボローム解析からDPYSL4ノックアウト細胞では、フマル酸・コハク酸の増加という好気的回路の抑制を認めるものの解糖系代謝産物への変化はほとんど見られず、ミトコンドリア制御を裏付ける結果が得られていた。これらミトコンドリア機能と抗腫瘍効果を結びつける一つの現象として、フェロトーシスに注目した。フェロトーシスは、鉄依存の過酸化脂質の蓄積によって起こされる。その過程で、脂質代謝に関連するメバロン酸経路が関与することが知られている。そこで、ミトコンドリアにおける代謝変化と抗腫瘍効果について、フェロトーシスの観点から捉えて研究を行うために、コロンビア大学生物科学科Carol Prives教授との共同研究でフェロトーシス関連分子探索のためのnon-target proteomicsを行った。線維肉腫細胞株において、エラスチンの投与によるフェロトーシス誘導は、MDM2/MDMXの阻害によって抑制されることがすでに報告されている。そのメカニズムとして、エラスチン投与によって増加した不飽和脂肪酸を生成する酵素群やペルオキシダーゼは、MDMXの阻害によって、抑制されることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
DPYSL4のストレートノックアウトマウスを用いた報告はこれまでにはなく、DPYSL4ストレートノックアウトマウスとコンディショナルノックアウトマウスの作成に成功し、飼育環境を整えることができた。また、Carol Prives教授がすでに共同研究を行っているBrent Stockwell教授(コロンビア大学)はフェロトーシス研究の先駆者であり、ミトコンドリア機能と抗腫瘍効果を結びつける一つの現象として、フェロトーシスに注目して研究を推進することができた。したがって、Carol Prives教授のラボとの共同研究は、肥満とがんないし腫瘍制御を結ぶメカニズムをフェロトーシスの観点から捉えることができ、研究を推進できている。
フェロトーシスに関連するメバロン酸経路が、DPYSL4をはじめとする様々なミトコンドリア機能に関連する分子によって、その酸素消費調節と活性酸素種(ROS)や過酸化脂質に影響を与えるかは興味深い点であると同時に今後の課題である。DPYSL4のconditionalノックアウトマウスは申請者が作製したオリジナルであり、DPYSL4のミトコンドリア機能調節は申請者が初めて報告した知見であり、学術的独自性と創造性が高い。また、作用メカニズムを明らかにする目的で、ミトコンドリア高次複合体機能のオミックス解析とSingle Cell解析を組み合わせた点がユニークである。がん分野でリードしているがん3次元培養手法を積極的に取り入れることで、高次構造情報を統合して考えたり、エネルギーとバイオマス供給に必要なグルコースやアミノ酸がどのようにTCAサイクルから酸化的リン酸化へと移行しているかを炭素・窒素動態レベルで捉えたりすることが、新しい発見やシーズの発掘に重要である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件)
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