脳疾患のために歩行が障害される患者さんの数が高齢化社会の進展に伴って増えています.こうした方々は転倒の危険が高く,転倒によって介護の必要度が上がり生活の質が下がります. 転倒リスクが高い凹凸のある床面を歩く時には,大脳の前頭葉に複数存在する高次運動野による視覚に基づいた歩行制御が重要と考えられていますが,それらの具体的な機能は明らかでなく,本国際共同研究ではこれをネコを用いた実験で解明することを目指しました. まず行ったのが電気生理学的アプローチで、ネコが障害物つきのトレッドミル上を歩行している間に神経細胞活動を記録しました。私達はこの方法で、4delta野の機能を「複数の肢の協調運動の制御」であろうと特徴づけ,Cerebral Cortex誌上で発表しました. この見方を更に確かなものにするためには介入的アプローチも大切で、その一つが機能脱落実験です。私達は4delta野、および対照として4gamma野(一次運動野と呼ばれ各肢をより直接的かつ分節的に制御する)にムシモール(MUS)という薬物を微量注入してそれぞれの領域を一時的に不活性化し,歩行失調の様子を筋電図及びビデオ画像にて記録しました.その定量的解析は現在進行中ですが,定性的には,4delta野にMUSを注入した時には運動の失調が両方の脚に及ぶ傾向を認め,「4delta野は複数の肢の協調運動の制御に関与する」という見方を裏付けそうです.これに対して4gamma野にMUSを注入した時には失調は一肢に限局していました.他、6iffu野と呼ばれる別の高次運動野に対してもMUSを注入し,近づいてくる障害物を跨ぎ越える直前に軸足を不適切な位置に置く確率が高くなるという予想の下に実験データを解析中です. 本研究で得られた知見は高次運動野に着目した新たな歩行リハビリテーション法を開発するための基礎的な知見となると期待されます.
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