研究課題/領域番号 |
19KT0003
|
研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
榎本 美香 東京工科大学, メディア学部, 准教授 (10454141)
|
研究分担者 |
傳 康晴 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (70291458)
寺岡 丈博 拓殖大学, 工学部, 助教 (30617329)
高梨 克也 京都大学, 情報学研究科, 研究員 (30423049)
阿部 廣二 早稲田大学, 人間科学学術院, 助手 (60817188)
|
研究期間 (年度) |
2019-07-17 – 2022-03-31
|
キーワード | 共同体〈心体知〉 / 無形文化伝承 / 身体的相互作用 / 共在感覚 / 口承文化の科学 / 集合的心性 / 協同身体技法 / 共有知識 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、祭りを伝承する者たちが共同体〈心体知〉を体現することで、成員相互に生まれる共在感覚のあり方を解明することである。研究初年度である令和元年度はデータの収録と整備を行いつつ、共同体〈心体知〉の体現過程の相互行為分析に着手した。 1. 祭りの支度場面データの収録・整備:長野県下高井郡野沢温泉村にて、道祖神祭り(1/15)と湯澤神社例祭(9/8, 9)の支度を担う「三夜講」という数え42歳に連なる3年代の集団の3世代の活動場面を収録した。御神木伐採行事(元年10月12日から14日)、道祖神祭り準備・本番(2年1月9日から16日)において行われる主だった活動を収録した。また、湯澤神社例祭(元年9月5日から10日)の準備作業と祭り本番も収録した。 2. 共同体〈心体知〉の体現過程の相互行為分析:世話人と見習いの同じ役職の者同士が同じ場で協同活動(同時的共同)を行うことを通じて、祭りの共同体〈心体知〉を伝える方法を微視的マルチモーダル分析の手法で分析した。見習いから世話人・後見人という経時的な変化を経る中で(経時的共同)、同じ個人が共同体〈心体知〉を体得する過程を分析した。 これらの分析の結果、同一日の早朝の時間帯から10時過ぎ、昼過ぎ、午後と短い時間のスパンの中でも共同体〈心体知〉の学習が着実に生じており、特に初めてこの作業に参加する見習いたちが著しく1日の中で成長していく様を明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6年前から祭りの撮影を継続しており、撮影対象となる三夜講や保存会の人々に十分なコンセンサスを得ており、いつでも快く撮影や聞き取りに協力してもらえる関係を築いているため、データ収集にあたり滞りがなかった。また、研究代表者がH27年度より村内に住居を構えたことにより、観光客やスキー客が集まる祭り本番の最中でも、宿泊施設の予約に苦労することなく、撮影に専念することができた。またこのことは、村人に対し、単なる外部からの客としてではなく、村人の一員であり祭りを見守り記録する者という認識をもたらし、積極的な協力の機会を得られた。 また、共同体〈心体知〉の習得という従来の学校教育とは異なる学習形態を解明するという本研究の趣旨は、学会でも高く評価され、特集号論文への招待など、研究成果発表への門戸が大きく開けていることも研究の推進につながっている。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、データの収録と整備を行いつつ、共同体〈心体知〉の体現過程の相互行為分析を行っていく予定である。 1. 祭りの支度場面データの収録・整備(全員):長野県野沢温泉村で行われる道祖神祭り(1/15)と湯澤神社例祭(9/8, 9)の担い手である「三夜講」(数え42歳に連なる3年代)の祭りの支度場面を、複数台で映像収録する。複数人分のカメラ映像を合成し、発話を転記し、協同作業動作・視線・顔--身体の向き・ジェスチャー等を適宜符号化する。 2. 共同体〈心体知〉の体現過程の相互行為分析:a. 同時的協同の分析(高梨・阿部):世話人と見習いの同じ役職の者同士が同じ場で協同活動を行うことを通じて、祭りの共同体〈心体知〉を伝える方法を微視的マルチモーダル分析の手法で分析する。b. 経時的変化の分析(榎本・伝・寺岡):見習いから世話人・後見人という経時的な変化を経る中で、同じ個人が共同体〈心体知〉を体得する過程を微視的マルチモーダル分析の手法で分析する。c. 研究摺合せ(全員):同時的協同と経時的変化の分析結果を擦り合わせ、前者の中で会得した共同体〈心体知〉が後者の中でどのように体得されたかの議論を行う。年4回程度のデータセッションを予定している。 3. 共在感覚醸成のモデル化(全員):仲間内での対立、年配層からの苦言、膨大な作業など自分だけで解決できない問題へ対処するために、共同体〈心体知〉を一つにする他者を拠り所とする時、我も彼も物的世界の上で一繋がりであるという共在感覚に至ると仮定できる。「三夜講」主要メンバーへの聞き取り調査や、仲間同士が集まる機会への参与観察も併用しつつ、2の結果を踏まえて、共在感覚の醸成過程をモデル化する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
旅費、謝金の使用が当初の計画よりも少なかった。理由としては新型コロナウイルスの影響による以下の3つである。 1. 2月3月に予定していた、聞き取り調査が行えなかったため、旅費・謝金ともに発生しなかった。2. 2月3月に参加予定であった学会がすべて中止になった。3. 年度内に予定していた全体会合が開催できなかたっため、今後各自が使用したいデータについての打ち合わせが行えず、合成映像の依頼が行えなかった。 これらにより生じた研究遅延は以下のように今後解消する予定である。 1. まつりの準備が再開されるのを待ち、その前後に令和2年分とあわせて聞き取り調査を行う。2. 遠隔開催となる予定の学会での発表、論文等の執筆に令和元年分からの研究成果を発信していく。3. Zoom等での遠隔会議を開催し、各自の進捗状況と今後の研究方針、使用データ等についての打ち合わせを行い、令和元年分とあわせて令和2年分の合成映像の発注を行っていく。
|