畜産業が環境負荷に与えている影響は大きい。本研究では、家畜用飼料の約4割を消費している家禽に着目し、家畜用飼料の多様性を取り戻すための基礎研究を目指す。嗜好性の悪さから飼料源として活用されていない地域資源を掘り起こし、ニワトリの味覚を制御することでこれまで使われてこなかった資源を飼料化する道筋を作る。特にニワトリが感じる苦味に焦点を絞り、苦味の制御技術の開発を目指す。この技術により、栄養価は高いが苦味を持つ原料を、新たな飼料として養鶏の現場に送り出すことができる。 今年度の検討により、ニワトリの苦味受容体は口腔組織だけでなく、気管、盲腸、および総排泄腔といった組織にも発現していることがリアルタイムPCRによる解析で明らかとなった。3種類の苦味受容体遺伝子があるが、その中でも2種類の苦味受容体がこれらの組織に主に発現していた。また、それらの苦味受容体は口腔組織よりもむしろ気管、盲腸、および総排泄腔において多く発現していることがわかった。口腔組織以外の苦味受容体の機能はニワトリにおいては不明であるが、ヒトにおいては気道上皮に発現する苦味受容体がウイルスや毒物を認識し、繊毛運動を活性化させることでそれらを排除するクリアランス機構が存在することが報告されている。したがって、ニワトリにおいても気道や総排泄腔においてそのようなクリアランス機構があるのかもしれない。また、盲腸には腸内細菌が多数存在するが、腸内発酵の代謝産物あるいは腸内細菌由来物質を苦味受容体が認識し、ホルモン分泌等を介した代謝制御を行なっている可能性も考えられた。また、コーヒー等に含まれる苦味成分であるサポニン、および茶葉やワインに多く含まれるポリフェノールであるタンニン酸がニワトリの苦味受容体を活性化するとともに、実際にニワトリが忌避する苦味物質であることが行動試験で確認できた。
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