研究課題/領域番号 |
19KT0010
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
上中 弘典 鳥取大学, 農学部, 准教授 (40397849)
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研究分担者 |
伊福 伸介 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (70402980)
遠藤 常嘉 鳥取大学, 農学部, 教授 (70423259)
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研究期間 (年度) |
2019-07-17 – 2022-03-31
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キーワード | 未利用バイオマス利用 / 廃カニ殻 / ナノファイバー / 有機農業 / 植物 / 土壌 / 病害抵抗性誘導 / 生育促進 |
研究実績の概要 |
現在、加工後の廃カニ殻はその豊富な資源量に見合った産業利用がほとんどされておらず、廃棄物として焼却処分されているのが現状である。近年、土壌改良資材として有機農業でも利用されている廃カニ殻の土壌施用で生じる肥料効果と病害抵抗性の誘導能が、物理的な粉砕であるナノファイバー化によって増強されることを発見した本研究では有機農業で生産性向上可能なナノファイバー化技術を用いた廃カニ殼の有効利用技術の開発を最終的な目標とし、ナノファイバー化による廃カニ殻の機能向上とカニ殻による土壌改良に貢献する成分の同定と施用効果を生ずるメカニズムならびに土壌施用に最適なカニ殻由来キチンナノファイバー複合体の形状を明らかにすることを目的に研究を実施した。 カニ殻由来キチンナノファイバー(CNF)複合体は、確立済みの手法を用いて作成し、他の研究に提供した。また、CNFの加工についても実施し、栽培用土壌に添加してその効果を検証したが、無処理区と比較して明らかに植物(イネ)の生育を抑制したため、以後の研究にはCNFもしくはCNF複合体の水分散液を使用することとした。また、トマトを用いてCNF複合体の土壌施用効果を評価した。その結果、カニ殻由来CNF複合体の土壌施用により、トマト萎凋病に対する抵抗性が有意に向上したが、土壌中の萎凋病菌量の有意な変化は観察されなかった。土壌菌叢の構造解析の結果、真菌叢の多様性が向上した。これらの効果はタンパク質や炭酸カルシウムを含むCNFを施用した場合で顕著であったことから、カニ殻の土壌施用によるトマト萎凋病に対する抵抗性の誘導は、カニ殻の主成分であるキチンと土壌の真菌類による植物への直接的な作用により起こると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「カニ殻由来キチンナノファイバー(CNF)複合体の作成と加工」に関しては、確立済みの手法を用いてCNFもしくはCNF複合体の水分散液を作成し、予定通り他の研究に供給した。また、CNFの加工品についての評価から、本研究の大きな課題の一つであった“土壌施用に最適なカニ殻由来CNF複合体の形状の決定”に関して、CNF(複合体)の機能を発揮するには水分散液の形状が適していることを明らかにすることができた。また、「カニ殻由来CNF複合体の栽培土壌への施用による土壌環境への影響評価」に関する試験を実施することで、“ナノファイバー化による廃カニ殻の機能向上”と“カニ殻による土壌改良に貢献する成分の同定と施用効果を生ずるメカニズム”について、一定の成果が得られた。カニ殻の土壌施用により、一般的に放線菌が増加し、それにより病害抵抗性が誘導されると考えられていた。しかしながら、カニ殻由来CNF複合体を用いた研究から、放線菌を含めた細菌の土壌菌叢に対するカニ殻を構成する成分の影響は乏しいことが新たに明らかになった。さらに、真菌叢への影響が顕著であること、ならびにキチンだけでなく、それ以外の構成成分による影響も大きいという新たな発見があった。 一方で、交付決定後の8月より研究を開始したため植物の栽培試験準備が整わず、予定していた一部の植物栽培試験が開始出来なかった。「カニ殻由来CNF複合体による植物への作用機構の解明」に関する遺伝子レベルでの研究も含め、実施予定の研究全てについて、現在研究に着手し始めているところであり、次年度には一定の成果が得られると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究での最終目標である「有機農業で生産性向上可能なナノファイバー化技術を用いた廃カニ殼の有効利用技術の開発」を達成するために明らかにする3つの項目のうち、“土壌施用に最適なカニ殻由来キチンナノファイバー(CNF)複合体の形状の決定”に関する研究については完了したので、今後は他の2つの項目である“ナノファイバー化による廃カニ殻の機能向上”と“カニ殻による土壌改良に貢献する成分の同定と施用効果を生ずるメカニズム”に関して未着手の研究を中心に実施していく予定である。 前述の「カニ殻による土壌改良に貢献する成分の同定と施用効果を生ずるメカニズム」に関する新たな発見を含む成果については現在学術論文を執筆中であり、次年度中に査読付きの学術雑誌へ投稿する予定である。また、学会発表により成果を公表していく予定でもある。
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次年度使用額が生じた理由 |
植物栽培試験を行う計画で植物生育用器具等の消耗品の購入費用を計上していたが、交付決定後の8月より研究を開始したため栽培試験準備が整わず、予定していた一部の植物栽培試験が開始出来なかった。そのため使用しなかった一部の消耗品費について次年度使用額が生じた。実施できなかった植物栽培試験は次年度に実施するため、前年度に計上していた植物生育用器具等の消耗品の購入費用は次年度に全て使用する予定である。
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