本研究は、声の掛け合いによって社会的結合が促進するかとその神経基盤を調べることを目的する。これはダンバーの「音声グルーミング仮説」に基づいている が、これまで相関関係しか調べられてこなかったことに対し、因果的な関係性を実験的に実証しようとするものである。この実験を可能にするには、人のように 音声コミュニケーションを非常に頻繁に行い、また神経活動計測が可能な対象が必要である。さらに実験的介入のためにはその音声と制御機構についてよく知られていることが望ましい。そこで、鳴き交わしを頻繁に行い、かつ、音声コミュニケーションの行動神経科学研究の蓄積がある鳴禽、特にキンカチョウとジュウシマツを対象としている。 最終年度となる2022年度は、前年度までに行動実験において得られた成果が正しいものかを確認するため、新たな条件を検討する追加実験を行った。この実験は窓がついた壁で仕切られた対面ケージにおいて、窓が開いて相手を視認できることを社会的報酬として、手がかり音に対して発声すると報酬が得られるというものである。この際、①自分が発声する条件、②相手が発声する条件、③どちらが発声しても報酬が得られない3種類の条件を設けた。想定通り①と③の違いは得られたが、①と②の差は生じなかった。そこで、①と②の条件のみに絞った追加実験を行ったものの、やはり差は生じなかった。このことから、相手の発声を待つという行動はできないものと考えられる。また、発声に関与する脳領域の神経活動を電気生理学的に計測することができた。これらの成果について言語進化研究の国際学会で発表した。また本研究を通じて得られた知見を含む解説論文を発表した。
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