本研究課題は、自己語りの実践をとおして形成されるオーラル・コミュニティの実際を明らかにし、とくに自己を語る際のオーラル・コミュニケーションが人と人とのつながりを生成する交話機能をもつこととオーラルヒストリーを共有することによる地域の歴史の構築と世代継承性について解明することをめざした。本研究課題でのアプローチは、1) 参与型のフィールドワークと傾聴を心掛けるライフストーリー・インタビューを主軸とする質的調査法、2) 自分史や聞き書 き集等のリテラルなドキュメントの収集と分析、3) 参加型関与によるエスノグラフィ的記述手法、という三つの方法をとり、福島県と福岡県における地域コミュニティを事例研究の対象として取り組む計画を立てた。そのねらいは、自己語り実践の場でのオーラル・コミュニケーションに共在意識を見いだし、オラリティの交話機能、高齢者の自己語りが地域の歴史再構築へのリソースとなる世代継承性を解明することにある。 研究期間中、2022年度においても、新型コロナウィルス感染拡大が波状的に続き、現地調査はなかなか難しい状況にあったために、当初の研究計画のうちフィールドワークの調査地と調査方法を修正し、福島県南相馬市での地域コミュニティ調査に重点をおいてオーラル・コミュニケーションをめぐる調査活動をおこなった。南相馬では、東日本大震災と原発事故避難解除後の地域社会において荒廃と絶望を乗り越えて再生していく過程で多様な語りの場の醸成というオーラル・コミュニティ形成にみられるオラリティが地域再生にとって大きな意義をはたしているという仮説を検討するために、南相馬市および周辺地域の復興状況も視野に入れつつ調査計画を修正しながら可能なかぎりの調査活動を実施し、研究のまとめに取り組んだ。2023年度には研究成果を国際学会や専門分野の学会等で報告し論文発表も予定している。
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