農林生産現場では、これまで殺虫剤や植物成長調整剤等の農薬に大きく依存してきた。しかし害虫や作物の生理学的特性を活用する新たな技術によって、農薬の使用を抑えるだけでなく、生産性を向上することが可能となる。施設栽培における受粉には、ハチなどの昆虫を利用する方法や手作業による方法が用いられており、コスト面と作業量の面から農業従事者の負担となっている。そこで本課題では、農作物とその害虫を用いて、振動に対する応答性のメカニズムを明らかにして、それを活用した害虫防除及び栽培技術を開発することを目的とする。 1)菌床シイタケの害虫において、前年度までにガ類の幼虫が、100Hz~1000Hzの振動によって行動制御が可能であることを示した。最終年度は、キノコバエ類の幼虫と成虫が、1000Hz以下の振動によって行動制御が可能であることを実験室内において示した。続いて、栽培施設内のシイタケ菌床において、幼虫に対する振動の制御効果を検証したところ、幼虫の成長が遅延し、羽化率が低下した。このことから、シイタケ害虫において、振動は防除技術として有用となる可能性が示された。 2)次に、トマトの害虫であるオンシツコナジラミにおいて、100Hzの振動を施設栽培のトマト植物体に伝えることによって、成幼虫に対する密度抑制効果を、前年度までに確認した。最終年度、追試を行い、オンシツコナジラミ成幼虫に対する密度抑制効果とトマト果実の増収効果を確認した。また、トマトの花を様々な周波数で加振して振幅を計測した。その結果、5Hz及び30~55Hzにおいて振幅が大きくなったため、これらの周波数がトマトの花の共振周波数であると考えられた。今後、振動によりトマトの受粉を促進するためには、これらの周波数や振幅、植物体への振動の伝達効率等を考慮する必要がある。
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