研究実績の概要 |
本研究は、ピア・ツー・ピア(Peer to Peer, P2P)技術を使った配車サービス・アプリケーションによって生まれたギグ・ワーカーとしてのドライバーに着目し、そもそも安定した正規雇用が限定的であったインドなどの新興国において、突如誕生した新たな働き方がどのような社会的意義を持っているのかを明らかにすることを目的としていた。コロナ禍によって思っていたような現地調査ができず、もともと対象としていたインドに加え、マレーシアを対象とし、配車アプリを使い、「個人事業主」として労働している人々にインタビューを行なった。 インタビューの結果見えてきたことはインドとマレーシアとの間の大きな違いである。インドでは配車アプリのドライバーは低カーストや労働者階級の男性が圧倒的に多く、中間層や女性はほとんど存在しないが、マレーシアでは教育レベルの比較的高い中間層が多く、そこにはムスリム女性も少なからず存在していた。また配車アプリのドライバーとして働くことの動機も異なり、インドでは収入のほとんどを配車アプリの収入に頼るものがほとんどであったのに対し、マレーシアでは、配車アプリからの収入は少ない年金や学費の支払いのためなど、あくまでの補助的な収入として位置付けていたドライバーがみられた。またインドでは借金をして車を購入し、その返済に追われていたドライバーが多かったのに対し、マレーシアではドライバーの多くは自己所有あるいは家族所有の車を使用していた。 研究での一番大きな成果は、新興国の中においても、配車アプリを使ったギグ・エコノミーの社会的意義が大きく異なっていることである。それは当該国の労働条件や、経済的格差、ドライバーとして働くことの文化的意義などに大きく影響を受けていることが明らかになった。
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