暗号通貨システムBitcoinでは,不特定多数のユーザ間での取引履歴(ブロックチェーン)に対する合意形成を,マイナーと呼ばれる特別なユーザ間での新規ブロックの生成と拡散に関する二つの競争的原理を用いることで自律分散的に実現している.新規のブロック生成には高難度かつランダム性の高いパズル的計算が求められるため,基本的に端末間で処理能力競争に帰着される.一方,新規ブロックの拡散は,システムを構成するノード間で論理的に形成されたネットワーク上で行われるため,その拡散速度が重要となる. 前年度までの検討の結果,2種類の数理モデル(Scalar SIRAモデルとNetwork SIRAモデル)を用いた数値評価により,競争的情報拡散における拡散妨害攻撃のリスクを明らかにしている.特に,情報(ブロック)本体と比較してそのメタ情報のサイズが小さくなる場合や,ネットワーク構造が不均質な場合には,ハブと呼ばれる高次数ノードが攻撃者になると拡散妨害リスクが急激に高まることがわかっている. そこで本年度では,拡散妨害攻撃への対策として,攻撃受信時の早期復旧と過去の経験に基づく攻撃回避について検討した.前者に関しては,拡散妨害攻撃を完全に防ぐことは困難であり,万一,攻撃を受けたとしても早期に復旧する必要がある.具体的には,正規のブロック取得をできる限り阻害せずに攻撃の早期検知を可能とするタイムアウト制御方式を提案した.一方,後者に関しては,ブロック生成・拡散が継続的に行われる点に着目し,隣接ノードごとの過去の通信履歴を基に,将来の正常かつ迅速なブロック取得が期待できるノードを将来のブロック取得先ノードとして選択する方式を確立した.実際のBitcoinネットワークの構造を考慮したシミュレーション評価により,両方式を用いることで拡散妨害リスクを大幅に軽減できることを示した.
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