超広帯域ミリ波サブミリ波観測による大規模構造の進化の研究

2011 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 20001003
• 研究種目: 特別推進研究
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 河野 孝太郎 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80321587)
• 研究分担者: 川邊 良平 国立天文台, チリ観測所, 教授 (10195141) ; 松原 英雄 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (30219464) ; 半田 利弘 鹿児島大学, 理工学研究科, 教授 (40202270) ; 羽部 朝男 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90180926)
• キーワード: ミリ波サブミリ波 / 超伝導 / 銀河形成 / ダスト放射 / 分子輝線

研究概要

本研究は、初期宇宙に存在する、ダストに深く覆い隠された爆発的星形成銀河(サブミリ波銀河)を多数発見し、その距離(赤方偏移)の分布やエネルギー源を調べることにより、宇宙における真の星形成史とその背後にある暗黒物質に迫ることを目的としている。
研究4年目となる平成23年度の研究実績は、以下のようにまとめられる。
1. ボロメーターカメラAzTECをサブミリ波望遠鏡ASTEに搭載して行った、大規模なサブミリ波銀河探索データに基づく研究の進展。中でも、以下のような成果が出版された。(1)GOODS-S領域等におけるサブミリ波銀河の多波長解析に基づき、赤方偏移3を超える時代にも大質量の爆発的星形成銀河が多数存在している可能性があることが分かった。(2)COSMOS領域での大規模な観測で発見された約200個にも及ぶ銀河のカタログを発表し、2体角度相関解析に基づく暗黒物質分布への制限を新たに得た。(3)SXDS領域に発見した極めて明るい爆発的星形成銀河の個別詳細研究。爆発的星形成銀河としては温度の低い天体である可能性があり、ダストに隠された爆発的星形成銀河にも多様性があることが分かった。この他、ASTE望遠鏡等を使った関連する成果が多数発表された。
2. サブミリ波銀河の赤方偏移を推定するための多色連続波カメラの開発の進展。2波長（270GHz帯と350GHz帯）での同時観測を可能とする超伝導遷移端センサー（TES）アレイを、デュワーや冷却系、光学系、読み出し回路などと組み合わせ、総合評価が進んだ。ASTE望遠鏡への搭載を踏まえた制御ソフトウエア等の開発調整も進展した。
3. 超広帯域分光受信機システムの改良と科学観測の進展。野辺山45m望遠鏡に搭載した超広帯域分光受信機システムの安定化、低雑音化を進め、このシステムを使った複数の遠方銀河からのCO分子輝線の検出に成功した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ダストに隠された爆発的星形成銀河（サブミリ波銀河）の膨大なサンプルに基づき、宇宙の星形成史や、その背後にある暗黒物質分布に関する研究も着実に進展し、その成果が、各種学会で報告され、また、論文として順調に出版されている。これらの銀河の距離を推定するための連続波カメラの開発は、カメラを搭載するASTE望遠鏡設置サイトでの異常気象等の原因のため、科学運用が遅れているが、実験室での評価は着実に進んでおり、今後の搭載および観測運用が期待できる。超広帯域分光受信機システムも性能向上が進み、複数の遠方銀河でのCO輝線の初検出に漕ぎつけており、今後着実にサンプルを拡大することが期待できる。

今後の研究の推進方策

連続波カメラのASTE望遠鏡への搭載、試験、およびそれを用いた科学観測を進める。これにより、既に我々が検出している膨大な数のサブミリ波銀河の赤方偏移分布の全貌が明らかにできるであろう。既に、既存の多波長データを駆使して、サブミリ波銀河の赤方偏移分布についての制限をつけて、その初期成果も出版しているが、中には、既存の多波長データでは距離がわからない、おそらく、非常に高い赤方偏移にあると予想される銀河（赤方偏移4を超えると期待される銀河）も多数見出されており、これらの銀河の距離決定を進める上で、連続波カメラが活躍すると期待できる。
また、稼働を開始したALMA望遠鏡をはじめとする、既存のミリ波サブミリ波干渉計による高分解能観測、公開が進むハーシェル宇宙望遠鏡のデータを使った解析、また、すばる等の光学赤外線望遠鏡による追及観測なども着々と進展しており、これらを引き続き推し進めていくことで、当初に掲げた科学目標を達成できると期待している。

研究成果

• [雑誌論文] Deep 1.1 mm-wavelength imaging of the GOODS-S field by AzTEC/ASTE - II. Redshift distribution and nature of the submillimetre galaxy population (2012)
  • 著者名/発表者名: Yun, M. S., Ezawa, H., Hatsukade, B., Hughes, D. H., Iono, D., Johnson, S., Kawabe, R., Kohno, K., Oshima, T., Tamura, Y.
  • 雑誌名: MNRAS 巻: 420 ページ: 957-985
  • DOI: DOI:10.1111/j.1365-2966.2011.19898.x
  • 査読あり
• [雑誌論文] On the Clustering of Submillimeter Galaxies (2012)
  • 著者名/発表者名: Williams, C. C., Kawabe, R., Kohno, K., 2 coauthors
  • 雑誌名: Astrophys. J 巻: 733 ページ: id.92
  • DOI: DOI:10.1088/0004-637X/733/2/92
  • 査読あり
• [雑誌論文] Probing Circumnuclear Environments with the HCN(J = 3-2) and HCO+(J = 3-2) Lines: Case of NGC 1097 (2012)
  • 著者名/発表者名: Hsieh, P.-Y., et al.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 747 ページ: id.90 (10pages)
  • DOI: 10.1088/0004-637X/747/2/90
  • 査読あり
• [雑誌論文] AzTEC 1.1-mm images of 16 radio galaxies at 0.5 < z < 5.2 and a quasar at z= 6.3 (2011)
  • 著者名/発表者名: Humphrey, A., 7 coauthors, Ezawa, H., Kawabe, R., Kohno, K., 4 coauthors
  • 雑誌名: MNRAS 巻: 418 ページ: 74-89
  • DOI: DOI:10.1111/j.1365-2966.2011.19437.x
  • 査読あり
• [雑誌論文] NRO M33 All-Disk Survey of Giant Molecular Clouds (NRO MAGiC). I. H I to H2 Transition (2011)
  • 著者名/発表者名: Tosaki, T., et al.
  • 雑誌名: Publications of the Astronomical Society of Japan 巻: 63 ページ: 1171-1179
  • 査読あり
• [雑誌論文] Dusty extreme starbursts in the early universe (2011)
  • 著者名/発表者名: Kohno, K.
  • 雑誌名: EAS Publications Series 巻: 52 ページ: 23-33
  • DOI: 10.1051/eas/1152004
• [雑誌論文] Millimeter Radio Continuum Emissions as the Activity of Supermassive Black Holes in Nearby Early-type Galaxies and Low-luminosity Active Galactic Nuclei (2011)
  • 著者名/発表者名: Doi, A., et al.
  • 雑誌名: The Astronomical Journal 巻: 142 ページ: id.167(11pages)
  • DOI: 10.1088/0004-6256/142/5/167
  • 査読あり
• [雑誌論文] Temperature Variations of Cold Dust in the Triangulum Galaxy M 33 (2011)
  • 著者名/発表者名: Komugi, S., et al.
  • 雑誌名: Publications of the Astronomical Society of Japan 巻: 63 ページ: 1139-1150
  • 査読あり
• [雑誌論文] CO Observations of the Host Galaxy of GRB 000418 at z = 1.1 (2011)
  • 著者名/発表者名: Hatsukade, B., et al.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 738 ページ: id.33 (4pages)
  • DOI: 10.1088/0004-637X/738/1/33
  • 査読あり
• [雑誌論文] AzTEC millimetre survey of the COSMOS field - III. Source catalogue over 0.72 deg<SUP>2</SUP> and plausible boosting by large-scale structure (2011)
  • 著者名/発表者名: Aretxaga, I., et al.
  • 雑誌名: Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 巻: 415 ページ: 3831-3850
  • DOI: 10.1111/j.1365-2966.2011.18989.x
  • 査読あり
• [雑誌論文] Detection of an ultrabright submillimetre galaxy in the Subaru/XMM-Newton Deep Field using AzTEC/ASTE (2011)
  • 著者名/発表者名: Ikarashi, S., et al.
  • 雑誌名: Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 巻: 415 ページ: 3081-3096
  • DOI: 10.1111/j.1365-2966.2011.18918.x
  • 査読あり
• [雑誌論文] The Millimeter Sky Transparency Imager (MiSTI) (2011)
  • 著者名/発表者名: Tamura, Y., et al.
  • 雑誌名: Publications of the Astronomical Society of Japan 巻: 63 ページ: 347-356
  • 査読あり
• [学会発表] ASTE搭載CATS345受信機のDewarへの直接設置化および両偏波化 (2012)
  • 著者名/発表者名: 木村 公洋
  • 学会等名: 日本天文学会2012春季年会
  • 発表場所: 龍谷大学（京都府）
  • 年月日: 20120319-20120322
• [学会発表] The AzTEC/ASTE 1.1-mm survey of Ly$\alpha$ blobs at z = 3.1 (2012)
  • 著者名/発表者名: 田村 陽一
  • 学会等名: 日本天文学会2012春季年会
  • 発表場所: 龍谷大学（京都府）
  • 年月日: 20120319-20120322
• [学会発表] ガンマ線バースト母銀河における埋もれた星形成活動への制限 (2012)
  • 著者名/発表者名: 廿日出 文洋
  • 学会等名: 日本天文学会2012春季年会
  • 発表場所: 龍谷大学（京都府）
  • 年月日: 20120319-20120322
• [学会発表] SSA22領域におけるサブミリ波銀河の性質：III. 大規模構造との関係性 (2012)
  • 著者名/発表者名: 梅畑豪紀
  • 学会等名: 日本天文学会2012春季年会
  • 発表場所: 龍谷大学（京都府）
  • 年月日: 20120319-20120322
• [学会発表] サブミリ波銀河と活動銀河核 (2012)
  • 著者名/発表者名: 田村陽一
  • 学会等名: 巨大ブラックホールの起源
  • 発表場所: 筑波大学（茨城県）
  • 年月日: 20120224-20120225
• [学会発表] 1100umselected SMGs in SXDF: multi wavelength detections by Spitzer/Herschel (2011)
  • 著者名/発表者名: 五十嵐創
  • 学会等名: 次世代赤外線天文衛星SPICA が目指す宇宙星形成史とブラックホール進化の解明
  • 発表場所: 名古屋大学（愛知県）
  • 年月日: 20111018-20111019
• [学会発表] 原始銀河団SSA22 におけるサブミリ波銀河の性質とSPICA への期待 (2011)
  • 著者名/発表者名: 梅畑豪紀
  • 学会等名: 次世代赤外線天文衛星SPICA が目指す宇宙星形成史とブラックホール進化の解明
  • 発表場所: 名古屋大学（愛知県）
  • 年月日: 20111018-20111019
• [学会発表] Dusty extreme starburst galaxies explored by SPICA and ALMA (2011)
  • 著者名/発表者名: 河野孝太郎
  • 学会等名: 次世代赤外線天文衛星SPICA が目指す宇宙星形成史とブラックホール進化の解明
  • 発表場所: 名古屋大学（愛知県）
  • 年月日: 20111018-20111019
• [学会発表] 野辺山 45 m 鏡新観測システムと新マルチ受信機 FOREST の現状 (2011)
  • 著者名/発表者名: 中島 拓
  • 学会等名: 日本天文学会2011秋季年会
  • 発表場所: 鹿児島大学
  • 年月日: 20110919-20110922
• [学会発表] 100 GHz帯直列型SISミクサの研究開発 (2011)
  • 著者名/発表者名: 井上裕文
  • 学会等名: 日本天文学会2011秋季年会
  • 発表場所: 鹿児島大学
  • 年月日: 20110919-20110922
• [学会発表] SSA22領域におけるサブミリ波銀河の性質：II. 赤方偏移の推定 (2011)
  • 著者名/発表者名: 梅畑豪紀
  • 学会等名: 日本天文学会2011秋季年会
  • 発表場所: 鹿児島大学
  • 年月日: 20110919-20110922
• [学会発表] Submm/IR Observations for Dusty Star-forming Galaxies in theProto-cluster at z=2.48 (2011)
  • 著者名/発表者名: 鈴木賢太
  • 学会等名: 日本天文学会2011秋季年会
  • 発表場所: 鹿児島大学
  • 年月日: 20110919-20110922
• [学会発表] Clustering of 1.1 mm-selected dusty starburst population (2011)
  • 著者名/発表者名: 廿日出文洋
  • 学会等名: 日本天文学会2011秋季年会
  • 発表場所: 鹿児島大学
  • 年月日: 20110919-20110922
• [学会発表] SXDFにおけるサブミリ波銀河探査とその対応天体の同定 (2011)
  • 著者名/発表者名: 五十嵐創
  • 学会等名: 日本天文学会2011秋季年会
  • 発表場所: 鹿児島大学
  • 年月日: 20110919-20110922
• [学会発表] Cosmology Tomography with Extragalactic CO Emitting Galaxies (2011)
  • 著者名/発表者名: Tamura, Y.
  • 学会等名: Large Aperture Millimeter/submillimeter Telescopes in the ALMA Era
  • 発表場所: Osaka Pref. University （大阪府）
  • 年月日: 20110911-20110913
  • 招待講演
• [学会発表] Multi-color TES imaging array for ASTE (2011)
  • 著者名/発表者名: Oshima.T.
  • 学会等名: Large Aperture Millimeter/submillimeter Telescopes in the ALMA Era
  • 発表場所: Osaka Pref. Universityｚ（大阪府）
  • 年月日: 20110911-20110913
• [学会発表] ASTE/AzTEC サブミリ波銀河探査プロジェクト (2011)
  • 著者名/発表者名: 田村陽一
  • 学会等名: NRO ユーザーズミーティング
  • 発表場所: 国立天文台野辺山（長野県）
  • 年月日: 20110727-20110728
• [学会発表] ASTE 多色連続波カメラによる遠方宇宙の観測的研究 (2011)
  • 著者名/発表者名: 田村陽一
  • 学会等名: NRO ユーザーズミーティング
  • 発表場所: 国立天文台野辺山（長野県）
  • 年月日: 20110727-20110728
• [学会発表] サブミリ波による銀河探査 (2011)
  • 著者名/発表者名: 河野孝太郎
  • 学会等名: RESCEU サマースクール
  • 発表場所: 熊本
  • 年月日: 20110725-20110726
• [学会発表] AzTEC/ASTE 1100μm deep survey of the Subaru/XMM-Newton Deep Field: survey and counterpart identifications (2011)
  • 著者名/発表者名: Ikarashi, S.
  • 学会等名: Unveiling the Far-IR and Sub-mm Extragalactic Universe
  • 発表場所: California, USA
  • 年月日: 20110512-20110514
• [学会発表] Dusty extreme starburst galaxies explored by SPICA and ground-based mm/submm telescopes (2011)
  • 著者名/発表者名: Kohno, K
  • 学会等名: Unveiling the Far-IR and Sub-mm Extragalactic Universe
  • 発表場所: California, USA
  • 年月日: 20110512-14
• [学会発表] Future ALMA studies on cosmology and the distant universe
  • 著者名/発表者名: Tamura, Y.
  • 学会等名: The First ALMA Future Development Workshop
  • 発表場所: NAOJ, Tokyo, Japan（東京都）
• [備考] 平成20年度 特別推進研究「超広帯域ミリ波サブミリ波観測に基づく大規模構造の進化の研究」
  • URL: http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/~kkohno/wiki/index.php?H20tokusui