エキゾチック原子は、反陽子など、電子以外の負電荷の粒子が原子核のまわりを回っている、自然界には存在しない奇妙な原子であり、それらが放出・吸収する光の周波数を精密に測定することで、通常原子の分光では得られない基礎物理定数を精密に決めることができる。 本研究では、(1)反陽子ヘリウム原子と(2)K-中間子ヘリウム原子の2種類のエキゾチック・ヘリウム原子を高精度で分光し、陽子・電子質量比などの基礎物理定数の精度を格段に高めることをめざす。前者の研究はCERN研究所の反陽子減速器施設で、後者の研究はJ-PARC加速器のハドロン実験施設で推進する。 本年度、CERNにおいては反陽子ヘリウム原子を1.5Kの低温ガス中で生成してドップラー幅を減らす実験を開始すべく、標的減圧用の大型ポンプを設置した。それを用いて実験を行い、予定通りに分光精度が高まっていることが確認されたため、反陽子ヘリウム3と反陽子ヘリウム4の12本の共鳴線を高精度かつ系統的な測定を行った。 一方J-PARCにおいては、K中間子ビームラインの整備やX線測定用のシリコン・ドリフト検出器およびヘリウム3標的の調整が進み、加速器の陽子ビーム強度が上がれば、K中間子ヘリウム3原子のX線分光の本番実験が行える見通しであったところであるが、東日本大震災でJ-PARCが被災し、我々の実験装置も被害を受けたため、実験開始に至らなかった。また、2011年日本物理学会春の年会は震災で中止になったため繰越を行った。
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