エキゾチック原子は、反陽子など、電子以外の負電荷の粒子が原子核のまわりを回っている、自然界には存在しない奇妙な原子であり、それらが放出・吸収する光の周波数を精密に測定することで、通常原子の分光では得られない基礎物理量を精密に決めることができる。 本研究では、(1) 反陽子ヘリウム原子と (2)K中間子ヘリウム原子の2種類のエキゾチック・ヘリウム原子を高精度で分光し、陽子・電子質量比などの基礎物理定数の精度を格段に高めることをめざしている。 本年度、CERNにおける反陽子ヘリウム4原子および反陽子ヘリウム3原子の分光については、ヘリウムガス標的温度を1.5Kまで冷却することで、ドップラー効果による単光子共鳴線幅を従来の1/10に減らした測定を完了した。これにより、反陽子・電子質量比の相対精度が、陽子・電子質量比に匹敵する0.5ppb(20億分の1)程度にまで向上したと見込んでいるが、最終的な結果の取りまとめには今後約1年を要する。 一方、K中間子原子については、イタリアの電子陽電子衝突型加速器DAΦNEにおいて、Φ中間子崩壊で生じる低速K中間子を低圧の水素ガスやヘリウムガスに止め、K中間子原子の脱励起X線をシリコンドリフト検出器(SDD)で測定したデータの最終的な解析が完了し、結果を複数の論文として公表した。その結果、1) K中間子水素原子の基底状態の強い相互作用シフトと幅が、最新の理論と良く一致すること、2) K中間子ヘリウム3原子の2p準位のシフトと幅はどちらも小さく、大多数の理論予想の範囲内であることが示された。 また、その他、π中間子原子や、エータプライム(η’)中間子原子などのエキゾチック原子についても、関連した研究を行い、成果を発表した。
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