研究概要 |
化石燃料枯渇が危惧される現代社会において、持続性社会を形成させるために高効率で水を分解する触媒開発は最重要研究課題となっている。これまで数多くの水の2電子還元による水素生成触媒は報告されてきたが、水の4電子酸化による酸素発生触媒は非常に限定されており、さらに2分子の水からの酸素-酸素結合形成過程は未解明のままである。申請者は架橋配位子btpyan(1, 8-bis(2, 2' : 6', 2"-terpyrid-4'-yl)anthracene)、dbq(3, 6-dibutylbenzoquinone)と水酸基から成る2核Ru錯体[Ru_2(btpyan)(dbq)_2(OH)_2]^<2+>は非常に優れた水の4電子酸化触媒であることを報告したが(TON=33500;Inorg.Chem.329(2001))、酸素-酸素結合生成過程に関しては未解明のままであった。平成22年度に[Ru_2(btpyan)(dbq)_2(OH)_2]^<2+>のdbqに代えてbpy(2,2'-bipyridine)を有する2核Ru錯体[Ru_2(btpyan)(bpy)_2(OH)_2]^<2+>を合成した。[Ru_2(btpyan)(bpy)_2(OH)_2]^<2+>の酸素発生能力は[Ru_2(btpyan)(dbq)_2(OH)_2]^<2+>に比して、かなり劣るが、前者の2核Ru錯体をH_2^<16>OとH_2^<18>O中で化学的および電気化学的酸化による^<16>O_2と^<18>O_2発生直後の錯体の共鳴ラマンスペクトルを測定することで、2分子の水由来のパーオキソ金属錯体の酸素-酸素伸縮振動の測定に始めて成功した(Ru-^<16>O-^<16>O-Ru(824cm^<-1>);Ru-^<18>O-^<18>O-Ru(780cm^<-1>))。この結果は、水由来の末端オキソ配位子上に不対スピンが誘起される電子状態が形成された際にはオキシルラジカルカップリング反応により酸素-酸素結合生成が起こることを示した最初の研究成果である。
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