平成21年度は、リンパ節内における癌細胞と免疫細胞、特に癌抗原特異的なCD8陽性T細胞の相互作用を、二光子レーザー顕微鏡によってリアルタイムで可視化するための、イメージングシステムを構築し実験を行った。癌細胞としては、蛍光タンパク質を発現させたB16F10メラノーマ細胞、もしくはモデル抗原としてニワトリ卵白アルブミン(OVA)を発現するB16F10-OVA細胞を用いた。T細胞は、メラノーマの内在性抗原gp100に応答するCD8陽性T細胞、もしくはOVAに応答するCD8陽性T細胞を、それぞれトランスジェニックマウスから単離後、担癌マウスに養子移植することにより可視化した。特異抗原およびアジュバントによる免疫後、どちらのCD8陽性T細胞も効率よく増殖し、多くが細胞傷害性エフェクター細胞へと分化した。これらのエフェクター細胞は、所属リンパ節に浸潤した腫瘍細胞に効率よくアクセスすることが観察された。OVA特異的なエフェクター細胞は、リンパ節内のB16F10-OVA細胞に安定に結合し、その後これらの癌細胞の細胞死を誘導した。一方gp100特異的なエフェクター細胞は、リンパ節内でB16F10、B16F10-OVAのどちらの癌細胞とも、効率よく安定接合することができず、細胞死の誘導の効率も非常に低かった。これまで腫瘍原発巣において、腫瘍細胞へのアクセスが、エフェクターT細胞による癌細胞の除去を制限する因子として報告されている。今回の結果は、自己抗原である内在性の癌抗原に対するT細胞の応答においては、T細胞が腫瘍細胞ヘアクセスできた場合でも、T細胞と癌細胞の接合を抑制し、その結果癌細胞の除去を阻害する機構が働いていることを示唆する。
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