研究概要 |
H. pylori (HP)感染によって胃癌が発症する過程では、胃粘膜に種々の遺伝子変異が生成蓄積することが重要である。研究者らは、ホストの遺伝子に変異を入れることが可能なAIDがHP感染によって発現し、それが遺伝子変異を導入することによって炎症発癌に関与することを報告した。そこで本研究ではAIDを中心に、HP感染による胃癌発生過程における遺伝子変異生成の機序を明らかにすることを目的とした。 1. 種々の遺伝子改変HPを用いた検討から、HPは、タイプ4分泌装置を介して未知の物質を胃粘膜細胞に導入し、NFkBを活性化させることによってAIDを発現することが明らかとなった。またその際CagAは全体の活性の約30%を担っていた。 2. AID-KOマウス、細胞への感染実験で、AID-KOではHPによる遺伝子変異導入効率が約1/7になることから、HPによる遺伝子変異の大部分はAIDが担っていることが判明した。 3. AIDは胃粘膜において、p53, p16, β cateninなどに特異的に変異を導入することが判明した。また同時にB細胞と同様にBc16も特異的に変異が導入された。 4. HP感染、AIDによる遺伝子の網羅的解析から、これらは、遺伝子変異のみならず、多数の遺伝子の欠失、増幅を誘導することが判明した。またその際、遺伝子変異の導入と遺伝子の欠失増幅の場所は、共通している場合が多いことも判明した。以上より、AIDは遺伝子のある部位を特異的にターゲットして、変異と遺伝子不安定性の両方を同時に促進させるものと思われた。
|