DNA損傷反応を制御するチェックポイントキナーゼの個体レベルでの発ガン過程における関与を明らかにする目的で、Chk1およびChk2の二重変異マウスを作製して、発ガン率およびその原因を明らかにした。これまでの研究成果から、チェックポイントキナーゼが発ガン過程において重要な役割を果たしていることが強く示唆されているが、Chk1およびChk2単独変異マウスでは全く個体レベルでの発ガンが亢進していなかった。しかしながら、Chk1ヘテロChk2ホモ欠失のマウス個体では野生型に比較して、有意に発ガン率が亢進していた。興味深いことに、Chk1ヘテロChk2ヘテロマウスにおいても発ガン率の亢進を認めた。これらのマウスに認められる癌の病理学的解析は、Chk1/Chk2二重変異マウスで見られる癌は、悪性リンパ腫が主であり、野生型で認められる癌とほぼ同様であった。Chk1/Chk2二重変異マウス由来の胎児繊維芽細胞を用いた解析から、Chk1は主にDNA損傷あるいはDNA複製阻害に反応したG1期およびG21M期の細胞周期停止に、Chk2はDNA損傷に反応したアポトーシス制御およびDNA損傷修復に重要な役割を果たしていると考えら得た。重要なことに、現在最も効率的なガン防御機構と考えられている早期細胞老化においてはChk1とChk2のどちらも必須な役割を果たしていないことが分かった。これらの結果は、Chk1/Chk2二重変異マウスに見られる発ガン亢進は、DNA損傷に反応した細胞周期停止とアポトーシス、DNA損傷修復の重複不全により誘導されることが強く示唆された。
|