本研究の最終目標は、チェックポイントキナーゼ群が個体レベルにおいて発ガン防御機構に役割を果たしているかどうかを明らかにし、その分子機構を解明することにある。具体的には、チェックポイントに部分不全を示すChk1へテロマウスとアポトーシスに機能不全があるChk2ホモ欠失マウスを交配し、Chk1^<+/->Chk2^<-/->マウスを作製して、発ガン傾向およびその病態を解析した。Chk1およびChk2単独の変異マウスは野生型と比較して高発ガン性を全く示さないが、Chk1/Chk2二重変異マウスは野生型マウスに比較して、高率に遅発性のガンを発症した。ガンの組織学的解析から、多くはB細胞悪性リンパ腫であったが、肺ガン、あるいは軟部組織腫瘍等も見られ、マウス自然発ガンに見られる発ガン組織型とほぼ同じであった。具体的には、生後20ヶ月において野生型マウスでは全くガン発症を認めなかったが、Chk1^<+/->Chk2^<-/->マウスでは70%に、Chk1^<+/->Chk2^<+/->でも40%にガン発症を認めた。さらに、これらマウスで見られる高発ガン性の原因を明らかにする目的で、マウス胎児繊維芽細胞の解析を行った。Chk1へテロ欠失変異は、細胞周期チェックポイント異常、とりわけDNA損傷に反応したG2/M期停止の部分異常を示した。一方、Chk2の完全欠失はDNA損傷に反応したアポトーシス誘導不全をきたすことが明らかとなった。Chk2完全欠失はDNA損傷修復異常も示した。DNA損傷に反応したG1/S期停止には、Chk1およびChk2の両方が協調的にCdc25Aタンパク質の量を制御することで機能していることが分かった。興味深いことに、Chk1/Chk2二重変異マウスはゲノムストレス非存在下においてもDNA損傷の蓄積と、p53タンパク質の誘導が認められ、チェックポイントキナーゼ群の機能欠失は細胞周期進行に伴い突発的なDNA損傷を誘導すると考えられた。しかしながら、発ガン防御に重要な役割を果たしているDNA損傷に反応した早期細胞老化誘導はChk1^<+/->Chk2^<-/->マウスの胎児繊維芽細胞で維持されていた。これらの結果は、世界で初めてチェックポイントキナーゼ群が個体レベルで突発的発ガンの防御に機能を果たしていることを明らかにしたものである。
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