研究概要 |
がんは正常な増殖制御を失い異常増殖する細胞の集団であり、がん細胞はその細胞周期制御機構、あるいはそこに起因する異常を持つ。がん細胞では、i)細胞周期の進行制御経路の異常や、ii)ゲノムの不安定化がその特徴として観察される。CDK(サイクリン依存性キナーゼ)は真核細胞の細胞周期の進行を制御するのみならず、染色体DNA複製が各細胞周期につき一度だけ起きるようにする制御システムの中心にある。本課題ではCDKによる染色体DNA複製制御システムに異常がある時に、染色体の安定性がどのように損なわれ、不安定化してゆくのかを分子レベルで明らかにし、理解することを目指し、解析を行っている。真核細胞の染色体DNA複製はCDKにより制御を受ける以下のような2段階の反応で起こる。細胞周期のG1期に複製前複合体(pre-RC)が形成されて準備を整え、S期に入るとpre-RCが活性化され(複製開始)、複製フォークが形成される。本年度の解析では、pre-RC活性化経路がCDKでどのように制御されるのか、またその制御機構のゲノム安定維持における役割を解析した。複製開始時に、CDKはSld2, Sld3という2つのタンパクをリン酸化し、リン酸化ペプチド結合タンパクであるDpb11との複合体形成を促進する。これらのうち、Sld2はS期にそのmRNAならびにタンパクレベルが上昇するが、S期以外、とくにG1期でSld2レベルを抑えることは、非特異的な複製開始を抑えるために一定の役割を果たしていることがわかった。また、Sld2、Sld3のリン酸化をバイパスするような変異では、ゲノム不安定化が顕著であったことから、CDKが複数の因子を重複して制御し、非特異的複製開始を抑えることで、ゲノムが安定に維持されていることがわかった。
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