癌細胞の無限増殖能は、細胞増殖シグナルの亢進、細胞生存シグナルの促進や細胞死のシグナルの抑制など、複数の生物学的事象が基盤となって形成される形質である。一方、炎症性サイトカインであるIL-1やTNFαは、癌細胞の生存や死を司る細胞外シグナリング因子としての機能を担うことが知られている。我々はこれまでに、PP2Cε、PP2CδおよびPP2Cηが、IL-1やTNFα依存性のシグナル伝達路の制御因子であることを見出してきた。本研究では、PP2Cε、PP2CδおよびPP2Cηの、癌細胞の生存と死の制御における役割を解明することが目的であり、本年度は以下の研究実績を得た。 1. PP2CηによるIL-1-NFkBシグナル伝達路の選線的抑制機構 我々はこれまでに、培養細胞の強制発現系を用いて、PP2CηがNF-kB経路を選択的に抑制することを明らかにしていた。本年度は、siRNAを利用した系で、内在性のPP2CηがIL-1依存性のNFκB活性化の制御因子であること、およびその際の細胞内標的分子がIKKβであることを明らかにした。 2. 肺癌におけるPP2Cファミリーの発現 最近、ヒト肺癌手術標本(45例)を用いて、PP2Cファミリーの発現を検討した結果、ヒト肺癌(腺癌・扁平上皮癖)におけるPP2CηmRNAのレベルが、正常肺に比べ顕著に低下していることが判明した。これらの結果から、PP2Cηが新規の癌抑制遺伝子産物である可能性が示唆された。
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