プロテインホスファターゼ2C(PP2C)は、真核生物の主要なセリン・スレオニンホスファターゼファミリーの一つで、哺乳動物では14種類のPP2C遺伝子が確認されている。ストレス応答シグナル伝達路(SAPK経路)はMKKK、MKKおよびSAPK(JNK及びp38)による三段階の連続したリン酸化反応からなるカスケードで、活性化されたSAPKが転写因子を始めとするさまざまなタンパク質のリン酸化を介して、細胞の増殖や分化など多様な細胞応答を引き起こす。このシグナル経路が適切に作動するには、各段階におけるリン酸化による活性化とプロテインボスファターゼによる負の制御のバランスが必須であるが、PP2Cファミリーのメンバーは、負の制御因子として重要な役割を担っていることが明らかとされている。 PP2CファミリーのメンバーであるPP2Cζ(zeta)は、JNKやp38によってリン酸化されうるセリン・プロリン(SP)/スレオニン・プロリン(TP)配列が複数集中した特徴的な領域を有している。このことより、JNKやp38の基質となる可能性を考え、まずin vitroにおいてリン酸化を受けるかを検討したところ、PP2CζがJNKの良い基質となることが明らかとなった。リン酸化部位は、質量分析および変異体を用いた実験によりSer92とThr205と同定された。これらの部位は、培養細胞での強制発現系においても、ストレス依存的にJNKによってリン酸化された。続いて、これらのリン酸化がPP2Cζの機能に与える影響を検討した結果、Ser^<92>のリン酸化がボスファターゼ活性の抑制を引き起こすことが明らかとなった。PP2Cファミリーの多くが転写制御という比較的long termの制御を受けていることが分かっているが、本研究はPP2Cが翻訳後修飾というshort termの制御を受ける初めての例を示したものである。
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