アクチン骨格の再構築は細胞運動、接着の制御において中心的な役割を担っており、癌細胞の浸潤・転移においても重要な役割を果たしている。アクチン脱重合因子コフィリンはアクチン再構築を制御する主要因子であり、LIMキナーゼによりリン酸化(不活性化)され、Slingshotにより脱リン酸化(活性化)される。本研究では、コフィリン制御系が癌細胞の運動能の制御、浸潤・転移能の獲得において果たす役割を解明することを目的として研究を行い、以下の結果を得た。1)癌細胞の浸潤過程において、癌細胞はinvadopodia(浸潤仮足)を形成するが、コフィリン/ADF、Slingshot-1/2、LIMキナーゼ1の発現を抑制するとMDA-MB-231細胞のinvadopodiaの形成、MT1-MMPの集積、浸潤活性が抑制されることを見出した。2)HT1080 fibrosarcoma細胞は3次元培養下では、プロテアーゼ阻害剤によって間葉系細胞遊走からアメーバ様細胞遊走への運動様式の変換(mesenchymal-amoeboid transition : MAT)をすることが知られているが、MATにおいてLIMキナーゼがRhoの下流で活性化されること、LIMキナーゼの発現抑制によってMATが阻害されることを見出した。3)Slingshotの活性を制御するキナーゼとしてPKD1を同定した。PKD1はRhoAの下流で活性化され、SlingshotのC末端領域をリン酸化することで14-3-3に対する結合力を増加させ、アクチン繊維によるSlingshotの活性化を阻害することを見出した。この結果、PKD1はコフィリンのリン酸化を促進し、がん細胞の運動能を抑制することを明らかにした。4)LIMキナーゼの低分子阻害剤を見出し、この化合物がLIMキナーゼの阻害によって癌細胞の運動、浸潤を阻害することを見出した。
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