研究概要 |
研究代表者らは2004年にマウスの新生児の精巣から、奇形腫形成能を持つ多能性幹細胞(mGS細胞)の樹立を報告した。本年度の研究では第一に、精子幹細胞株GS細胞ヘレンチウイルスによる発現ベクターを導入し、精子幹細胞からの奇形腫誘導に関わる遺伝子のスクリーニングを行った。Ras, Myc, Srcなど旧知のoncogeneや、Oct-4とNanog, Sox-2など多能性制御の関連遺伝子群などを調べたところ、Rasの関与を見出した。Rasのdominant negative体をGS細胞に導入したところ、GS細胞の自己複製増殖は著しく阻害された。またRasの強制発現によりGS細胞はGDNF非依存性に長期に増殖した。4ヶ月以上培養した細胞は野生型GS細胞と同様精子幹細胞マーカーの発現を維持し、精巣内に移植すると精子形成像が見られたことから、精子幹細胞としての活性維持が示唆された。さらに、試験管内では4ヶ月の培養期間中特にGS細胞の形態等に変化は見られなかったが、移植後の精巣においては精子形成像の他に、一部でseminomaの形成が認められた。また、研究代表者らはエピジェネティック調節機構の破綻が奇形腫への変化を誘導するのではないかと考え、DNA methyltransferase(DNMT)のGS細胞における遺伝子操作を行った。GS細胞においてDNMT1をノックダウンするとアポトーシスが認められた一方、DNMT3a/DNMT3bを阻害するとSineB 1反復配列に低メチル化が認められ、DNMT3Lを過剰発現するとmajor/minorsatellite sequenceに高メチル化が認められた。しかしDNMT3a/DNMT3b阻害細胞とDNMT3L過剰発現細胞はともに正常と変わらず試験管内で増殖し、精巣内に移植すると奇形腫の形成など多能性の獲得を示唆する像は認められなかった。
|