研究概要 |
研究代表者らは、胚性幹(ES)細胞を用いた心血管分化研究を行ってきた。すなわち、ES細胞からFlk1陽性の中胚葉レベルの細胞を分化誘導し、そこから血管を誘導する新しい分化系を開発した(Nature, 2000)。申請者は同システムを用いて動静脈リンパ管分化研究を行ない、動静脈リンパ管内皮細胞をES細胞から系統的に分化誘導することに成功した(Yurugi-kobayashi, Arterioscler Thromb Vasc Biol, 2006 ; Kono, Arterioscler Thromb Vasc Biol, 2006)。動静脈リンパ管すべての分化に成功しているのは世界でも申請者らのみである。現在動静脈リンパ管内皮分化過程における遺伝子プロファイルを作製している。本研究は、研究代表者が同定した動静脈リンパ管内皮特異的機能遺伝子を用いて、新しい抗がん治療戦略を開発することを目的とする。1) 動静脈リンパ管内皮特異的遺伝子の網羅的同定。2) 同定遺伝子の機能解析。3) これらの遺伝子群を用いたがん転移動物モデル等の検討。以上3項目の研究により、特異的かつ多面的に血管リンパ管新生を制御する新たな抗がん治療法の開発を目指すこととした。平成20年度までに、cAMP下流シグナルの探索を行い、Notchおよびβ-cateninが同時に活性化されることによりはじめて動脈内皮細胞が誘導されるという新しい動脈内皮細胞分化誘導機構を見いだしている(投稿中)。また、PKAを介した新しい血管内皮分化制御機構も見いだしている(投稿中)。またマウスiPS細胞からの心血管分化系を構築した(Narazaki, Circulation, 2008)。同論文は2008年Circulation誌基礎生物学部門の最優秀論文賞に選ばれた。このように着実な研究計画の進展を認めている。
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