本研究は、細胞がん化に重要なWntシグナルの伝達因子Dishevelled (Dvl)に結合する新規因子として見つけたnucleoredoxin (NRX)の機能、またがん化への関与について調べることを目的としている。NRXノックアウトマウスは骨形成や心臓形成に異常を示すが、Wntシグナルが骨では活性化する一方で、心臓では減弱していることがわかった。この原因はDvlの蛋白質量が心臓において非常に大きく減少しているためであり、NRXノックアウトマウス由来の繊維芽細胞(MEF)ではDvlのユビキチン化および蛋白質分解の促進が起こっていた。Dvlをユビキチン化する酵素としてE3複合体の一つKLHL12が知られているが、NRXの非存在下ではDvlとKLHL12の結合が恒常的に起こっており、そのためにユビキチン化が促進していることも明らかとなった。またNRXとpS3の両遺伝子のダブルへテロマウスを作製してその経過観察を行ったが、寿命に関しては特に顕著な差異は認められなかった。NRXの新規結合蛋白質の探索からFlightless-I (Fli-I)を見つけていたが、NRXが自然免疫応答に重要なアダプター蛋白質MyD88とFli-Iとの複合体形成を仲介していることが明らかとなった。実際NRXノックアウトMEFにおいてはMyD88がかかわるTLRシグナル伝達が過剰に活性化することも確認しており、NRXが多様な生物学的機能を果たしていることがわかった。
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