刺激に伴い細胞は、Racの活性化を介して、peripheral ruffleとdorsal ruffleという異なったラッフル膜を形成する。従来、dorsal ruffleはperipheral ruffleの延長線上にあるものと位置づけられてきたが、近年Rab5、 WAVE1、 Actinin-4等、dorsal ruffle形成を特異的に制御する分子が同定されるに至り、dorsal ruffle形成はperipheral ruffleと異なるシグナル伝達系で制御されていると考えられている。dorsal ruffleの機能的意義は十分に解明されたとは言えないが、細胞外マトリックスへの浸潤を制御することが示唆されている。それ故、がん細胞の浸潤・転移を理解する上で、dorsal ruffle形成を制御するシグナル伝達系を明らかにすることは重要である。 CDMファミリーは線虫からヒトに至るまで保存された分子で、低分子量Gタンパク質の上流で機能することで、細胞骨格の制御に関わっている。DOCK180は非リンパ球系細胞に発現するCDMファミリー分子であり、細胞株を用いた解析より細胞運動、アポトーシス細胞の貪食、神経突起形成を制御していることが報告されているが、その生理的機能は依然として不明である。我々は、DOCK180ノックアウトマウス(180delマウス)を作製し、このマウスが胎生後期で死亡することを見出した。180delマウス由来の胎児由来繊維芽細胞(MEF)ではdorsal ruffle形成が障害されており、細胞浸潤やマクロピノサイトーシスといった細胞機能に異常を認めた。このことから、DOCK180を介したdorsal ruffle形成はがん細胞の浸潤のみならず、生理的な状況でも重要な役割を演じていることが示唆された。また、レスキュー実験からdorsal ruffle形成に重要なDOCK180の機能ドメインを同定した。
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