癌根絶の治療標的は癌幹細胞であり、癌の予防や治療には、正常幹細胞の制御や癌化してからの癌幹細胞の未分化性維持機構の2面からアプローチする必要がある。申請者は細気管支肺胞上皮細胞特異的に癌抑制遺伝子Ptenを欠損させたマウスを作出した。このマウスは全例肺腺癌を自然発症し、肺腺癌発症前の肺幹細胞数が著しく増加していることを見出した。これは肺癌の初期状態から発癌までを模擬すると思われるモデル系である。現在このマウスを用いて、PI3キナーゼ阻害剤やAkt阻害剤による腫瘍発症抑制効果について検討を進めている。また、PTENの癌幹細胞維持における役割を検討するため、A549細胞にPTENを安定発現する細胞株を作製し、この細胞を用いて癌幹細胞マーカーとされるSP細胞数を検討した結果、PTEN発現細胞株における著しいSP細胞数の減少と、dominant negative Pten発現細胞におけるSP細胞数の増加を見出した。また各肺癌細胞株のSP細胞数と内因性PTEN蛋白の発現の相関を検討した結果、癌細胞株のSP細胞数と内因性PTEN蛋白の発現に負の相関があることを見出した。これはPten蛋白発現が癌幹細胞制御に関与することを示唆するものである。現在、PI3キナーゼ阻害剤やAkt阻害剤によってSP細胞数が変化するかどうかを検討するとともに、これらのSP細胞を免疫不全マウスに移植することで、in vivoでの腫瘍形成の評価を進めている。
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