NF-κBは生体の免疫反応に必須の転写因子であるが、一方では、その細胞増殖促進作用やアポトーシス抑制作用により、発がんとその後のがんの進行に関与していることが示唆されている。よって、NF-κBを負に調節する機構を解明することは、新しい分子標的治療薬の開発に向けて、きわめて重要であると考えられる。申請者らは、LIM蛋白ファミリーに属する核内蛋白PDLIM2(PDZ and LIM domain protein-2)が、NF-κBをユビキチン化・分解することにより不活性化することを明らかにした。本年度は、PDLIM2に結合して、NF-κBに対するPDLIM2の活性を調節するような分子の同定を試みた。この過程で、シャペロン分子として知られているHSP70(Haet Shock Protein-70)がPDLIM2と結合することを見出した。HSP70をPDLIM2とともに細胞に強制発現させると、HSP70はPDLIM2によるNF-κBの分解を促進した。一方、siRNAを用いてHSP70を細胞レベルでノックダウンすると、PDLIM2によるNF-κBの分解が傷害された。このことから、PDLIM2がNF-κBを分解するためには、HSP70の発現が必須であることが明らかになった。さらに、骨髄由来樹状細胞において、HSP70は、非刺激の状態では細胞質内にのみ発現しているが、細胞をLPSで刺激すると、3-5時間でHSP70の発現が亢進するとともに、HSP70が核内に移行することが明らかになった。以上のことから、樹状細胞の活性化の初期には、核内にはHSP70は発現していないために、PDLIM2ははたらかないと考えられる。そして、細胞が活性化された後に、核内においてHSP70の発現が誘導される。この時点で、PDLIM2はHSP70と共同してNF-kBを分解するように機能することが示唆された。
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