スキルス型胃癌に対する治療標的分子を同定するため、癌細胞が腹膜播種してゆく過程でチロシンリン酸化が亢進している蛋白質を同定してきた。そのなかでOssa/C9orf10は、癌細胞が血流の変化や放射線、化学療法などによる酸化ストレスに曝された際に、それに抵抗して生存する機構に関っている事が解明できた。同分子は細胞が酸化ストレスを受けた際に誘導されるSrcファミリーキナーゼの新規活性化因子で、活性酸素の産生に応じてSrc/PI3-キナーゼ経路を活性化し、抗アポトーシスシグナルを誘導した。またOssaのC末部分はIGF-II mRNAと結合し、IGF-II蛋白質の分泌を促進する機構も有していた。さらにOssaに結合する蛋白質として、PDCD2Lを得た。Ossa/PDCD2Lは協調してシスプラチンなどによる酸化ストレスに対して抵抗性を示し、癌細胞の抗アポトーシス作用を増強した。Ossaはヒトスキルス胃癌手術症例でも、正常胃粘膜に比較し癌部で高い発現がみとめられ、その発現抑制はヌードマウスでのスキルス胃癌細胞株の腹膜播種に対して阻止効果がみられた。 一方、ephrin-B1はこれまでの解析でスキルス癌の進展に寄与する事をみてきたが、そのC末部位のペプチドによる癌の腹膜播種に対する治療効果を検討した。細胞膜透過シグナルを付加したephrin-B1のC末ペプチドを培養細胞に添加する事で、メタロプロテアーゼの分泌促進やArfの活性化など、これまでに報告したephrin-B1に基づく細胞内シグナル経路がブロックされた。またヌードマウス腹腔内に同ペプチドを投与した結果、ephrin-B1を発現しているスキルス胃癌細胞の腹膜播種をin vivoで抑制することができた。同ペプチド構造を基盤に、ephrin-B1を標的とした低分子化合物の取得を試みている。
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