アンジオポエチン-1 (Ang1)は血管内皮細胞に発現するTie2受容体を介して、血管構造の安定化と血管新生の相反する作用を制御している。本研究では、腫瘍血管新生におけるAng1/Tie2シグナルの役割を明らかにすることを目的に解析を行い、以下に示すような結果を得た。 (1) Ang1/Tie2シグナルによる血管安定化機構 細胞間接着の有無でAng1によって誘導される遺伝子をマイクロアレイ解析により調べたところ、Ang1は細胞間接着存在下で特異的にKruppel-like factor 2 (KLF2)、connexin-40、delta-like 4 (Dll4)など血管安定化に重要な遺伝子の発現を誘導することが分かった。また、Ang1はTie2のトランス結合を介して、phosphoinositide-3-kinase/AKT/myocyte enhancer factor2経路を優先的に活性化し、それによりKLF2の発現誘導を惹起することを示した。さらに、Ang1によるKLF2の発現が血管内皮増殖因子(VEGF)による炎症反応を阻害することにより、血管の安定化に寄与していることが判明した。 (2) 腫瘍血管新生におけるアンジオポエチン-2 (Ang2)の役割の解析 これまでにAng2はTie2のアンタゴニストとして機能し、Ang1/Tie2シグナルを遮断すると考えられている。まず、その知見について検証したところ、Ang2はAng1と同様にTie2に結合しトランス結合をするが、Tie2を活性化する能力がないことが分かった。さらに、in vivoにおけるAng2の役割を知るため、表皮細胞で特異的にAng2を発現するトランスジェニック(Tg)マウスを樹立した。今後、このTgマウスの皮膚血管を詳細に解析すると共に、表皮細胞でAng1を発現するTgマウスと交配して、in vivoでもAng2がTie2のアンタゴニストとして機能しているのか解析する。
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