アンジオポエチン-1(Ang1)は血管内皮細胞に発現するTie2受容体を介して、血管構造の安定化と血管新生の相反する作用を制御している。本研究では、腫瘍血管新生におけるAng1/Tie2シグナルの役割を明らかにすることを目的に解析を行い、以下に示すような知見を得た。 (1) Ang1/Tie2シグナルが静止期の血管を維持するメカニズム 細胞間接着を有する内皮細胞において、トランス結合したTie2は、phosphatidylinosito1 3-kinase/Akt経路を介してdelta-like4の発現を誘導し、Notchシグナルを活性化することを示した。また、そのメカニズムとして、AktによるGSK3の不活性化と、それに伴うβ-cateninの転写活性化能の亢進が重要であることが分かった。さらに、Ang1/Tie2シグナルによるNotchシグナルの活性化は、ephrin-B2の発現を誘導し、血管安定化に寄与している可能性が示唆された。 (2) Ang1/Tie2シグナルによる内皮細胞間接着の増強機構 Ang1/Tie2シグナルは、Rap1低分子量G蛋白質を介して、細胞間接着部位でアクチン線維の束を形成する。このアクチン線維の束が、α-/β-cateninを介してVE-cadherinをアンカーすることで、VE-cadherin接着を安定化し、内皮細胞間接着を増強することを示した。 (3) Tie2シグナルにおけるAng2の役割の解析 In vitroの解析から、Ang2はTie2のトランス結合形成及びTie2の細胞外基質へのアンカリングを誘導するが、Tie2及びその下流シグナルを弱くしか活性化しないことが分かった。さらに、ケラチノサイトでAng2を発現するトランスジェニックマウスを樹立したところ、皮膚で径の太い血管が形成された。このことから、Ang2は周囲の環境によって、Tie2のアゴニストとしても、アンタゴニストとしても機能できることが分かった。
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