研究概要 |
上皮組織構造の破綻はがん浸潤転移の初期段階であり、細胞接着因子とアクチン細胞骨格の再構成を担う低分子量G蛋白質Rho, Rac, Cdc42およびTGFβシグナリングが重要な役割を果たしている。私どもはヒト遺伝性乳がんの抑制遺伝子候補LIM-domain only(LMO7)のsplice variantがTGFβによって誘導され、培養細胞の運動能を促進することを見出した。また、 LMO7がnectin-afadinを介した上皮細胞間接着に関与し、LMO7遺伝子欠損マウスは細気管支のポリープ様隆起病変と肺がんを発症することを明らかにした。本年度はLMO7遺伝子欠損マウスの表現型解析について報告した(Tanaka-Okamoto et al. 2009)。 LMO7はアクチン細胞骨格、上皮細胞のadherens junctionの集合、および遺伝子発現を調節すると予想される多機能蛋白質である。 LMO7はマウスの肺において高発現し細気管支上皮細胞のアピカル面に局在した。LMO7遺伝子欠損マウスはSPF環境下で生存可能であり生殖能力も保たれているが、14-15週齢付近で終末気管支上皮、呼吸気管支上皮、肺胞道において隆起性病変を発症した。さらに、90週齢を経過した頃から肺がん(腺がん)を発症する傾向が見られた。肺がんの発症率はLMO7遺伝子ホモ欠損マウスで22%、ヘテロ欠損マウスで13%であった。一方、野生型マウスでは原発性肺がんの発症は観察されなかった。肺がん細胞を培養し、多数の染色体異常を伴うこと、ヌードマウスに造腫瘍性を示すことを明らかにした。これらの研究成果から、 LMO7はがん抑制遺伝子として機能し、その遺伝子欠損はマウスでは肺がんの自然発症リスクを増加させることが示唆されたLMO7はヒト肺がん発症にも関連する可能性があり、今後の研究の展開が期待される。
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