研究概要 |
フコースによる糖鎖修飾はフコシル化と呼ばれ、癌や炎症と最も関連が深いと言われる。既に臨床応用されているフコシル化AFP(AFP-L3)やCA19-9は、フコシル化糖鎖の1つであり、フコシル化ハプトグロビンは新しい膵癌のマーカーとして、私達が同定したものである。本研究では、癌患者においてフコシル化タンパクが増加するメカニズム解析を中心に、実験を行なった。ハプトグロビンには、4カ所のN型糖鎖の結合ポテンシャル部位が存在し、それぞれの糖鎖構造を、マススペクトロメトリー法で解析した。その結果、3番目のN型糖鎖にはユニークな糖鎖構造が付加されていた。また、膵癌患者由来のハプトグロビンのこの部位には、微量ではあるが、特殊なフコシル化糖鎖が結合していた(Int J Cancer, 122, 2301-09)。フコシル化を制御する因子としては、フコース転移酵素に加え、ドナー基質GDP-フコースの合成酵素であるGMDやFX、さらにはGDP-フコーストランスポータが重要と考えられる。本来肝臓で産生されるハプトグロビンが膵癌患者で増加するメカニズムに関して、膵癌の産生するインターロイキン6(IL6)が重要であることを、共培養の実験かち発見した。数種類の膵癌細胞と肝癌細胞Hep3Bを共培養すると、IL6を産生する膵癌細胞のみハプトグロビンのmRNAの産生誘導が見られ、IL6の中和抗体の添加によって濃度依存的に阻害された。そしてIL6は、フコース転移酵素、GMD、FXのいずれもの発現を誘導することがわかった(BBRC. 377, 792-796)。しかし、こうして肝臓で産生されたフコシル化タンパク質は、必ずしも総て血中に分泌される訳ではない。そこで本研究では、フコシル化膜タンパク質に焦点を絞り、肝細胞の極性輸送とフコシル化に関して検討した。その結果、膜タンパク質においても、直接もしくは関接経路を通る特殊な分泌経路によってapical側に運搬されることが判明した。これらめ研究のほか、糖鎖と癌に関するいくつかの新しい知見を得た。
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