本研究では、時計遺伝子による癌関連遺伝子の転写制御を基盤にした癌診断法を開発することを目的として以下の実験を行った。実験1:発癌物質および抗癌剤の感受性に及ぼす時計遺伝子の影響。実験2:癌関連遺伝子および薬剤感受性規定遺伝子の転写制御機構の解明。実験3:時計遺伝子と癌関連遺伝子および薬剤感受性規定遺伝子の相互関連の評価。昨年度は実験1を中心に実施し、各種薬剤による細胞障害における重要な役割を担う癌関連遺伝子および薬剤感受性規定遺伝子を抽出した。それらの遺伝子を対象に、本年度は実験2、3を実施し、癌関連遺伝子および薬剤感受性規定遺伝子の転写制御機構と時計遺伝子との相互関連について検討した。対象として、Clock変異マウスおよびWild typeマウスの肝臓および肝初代培養細胞を用いた。実験1で抽出された癌関連遺伝子および薬剤感受性規定遺伝子を対象に、それらのmRNAの日周リズムについてin vivoで検討したところ、有意な日周リズムが存在することが明らかとなった。次に時計遺伝子のmRNAおよびタンパクの日周リズムを測定したところ、両者の相互関連が示唆された。また、対象遺伝子の転写制御領域に着目し、データベースより時計関連遺伝子の結合配列の存在を明らかにした。これを検証する目的で、in vitroの系で、対象遺伝子の転写制御領域の遺伝子配列を、deletionおよびmutationすることで、時計遺伝子が転写に関与していることを明らかにした。さらに、高濃度の血清処理後、in vivoの日周リズムをin vitroで再現する系を構築し、抽出された転写促進因子および転写抑制因子をsiRNAによるRNA干渉法でknock downさせ、時計関連遺伝子がそれらの転写制御に関与していることを明らかにした。その後、再びin vivoの系で、クロマチン免疫沈降法を用い、in vitroで抽出された転写制御因子が、転写に関与していることを明らかにした。以上の結果から癌関連遺伝子および薬剤感受性規定遺伝子の転写制御に時計遺伝子が関わっていることが明らかとなり、今後の創薬および育薬研究への展開が期待される。
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