(1) 申請者はこれまでに、ヘリコバクターピロリ菌病原因子CagAの組換えタンパク質を用いた構造解析結果からCagAが二つのドメインで構成され、CagA生物活性に重要なC末端領域においては高次構造の存在する一方で、自由度の高い不規則構造も併せて存在していることを報告した。今年度、C末端領域フラグメントを断片化したペプチドを用いてさらなる構造解析をすすめたところ、C末端領域において顕著な高次構造は形成されずその全般が不規則構造で構成されていることが明らかとなった。マイクロインジェクション法を用いて、組換えC末端フラグメントを胃上皮細胞へ直接注入し、組換えタンパク質の生物活性を細胞形態変化誘導活性を指標に検討した。その結果、不規則構造から構成されているC末端フラグメントは全長CagAタンパク質と同様に細胞形態変化を誘導た。CagAは主要な生物活性に重要なEPIYA領域周辺を不定形構造として持つ内因性不規則構造タンパク質であることが強く示唆された。一方、CagA分子のN末端フラグメントを用いた結晶化スクリーニングを行ったところ、複数の沈殿化剤によりN末端フラグメントのタンパク質結晶を得ることに成功した。得られたタンパク質結晶のX線構造解析を遂行中である。 (2) 外科切除固形腫瘍検体を用いてCagAの標的分子であるSHP-2タンパク質をコードするPTPN11遺伝子変異のスクリーニングを行い、肝細胞癌症例においてSHP-2のスレオニン(T)507からリシン(K)への置換を引き起こすミスセンス変異の同定に成功した。T507K変異は基質特異性の変化を伴うホスファターゼ活性の亢進を惹起することを見出した。さらに、T507K SHP-2を安定発現するNIH3T3細胞はヌードマウスに対して造腫瘍性を示しT507K SHP-2は発癌性RAS変異体と同様の悪性形質転換能を持つことが明らかになった。
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