研究概要 |
炎症はヒト発癌要因のひとつである. 全発癌要因に占める炎症の割合は, 国により5〜25%と異なるが, 一般的に先進国ほど減少する. 残念ながら我が国では, 20%にのぼると推計されている. こういった炎症を背景とした発癌を炎症発癌と呼ぶが, ヘリコバクター・ピロリ菌感染による胃発癌や, 肝炎ウイルス感染による肝細胞発癌などの例にあるように, いずれも遷延した炎症や感染を基盤とする. これまでに報告者は, 炎症発癌の動物モデルを作製し, β2インテグリンを介した好中球浸出が必須であること, さらに浸出好中球に由来する活性酸素が発癌の原因となることを証明してきた. これらの成績より, 炎症発癌の局所浸出を制御することができれば, 炎症発癌そのものを阻止し得るという着想に至った. そこで, 本研究では, 炎症細胞の血管内皮細胞への接着と浸出を評価できるin vitro解析系を構築し, 種々の化合物を添加して接着・浸出を阻害する薬剤を探索した. 用いた化合物は, がん特定領域・統合がん化学療法基盤情報支援班より提供を受けた約三百種にのぼる標準阻害剤を使用した. その結果、24種類に接着抑制効果を, また約10種類に促進効果を見いだした. 浸出抑制性化合物の対象分子は, カルシウム拮抗剤, ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体阻害剤, EGFシグナル阻害剤, MAPキナーゼ阻害剤, Akt阻害剤, 細胞周期制御シグナル阻害剤であった. これまでの文献報告を検索したところ, EGFシグナルは炎症細胞の浸出に関わることが既に報告されており, 本評価系が信頼できる解析系であることが検証された. これらの研究成果をもとに, 次いでマウス個体を用いた炎症細胞の浸出阻害効果を評価し, この抑制順位の高い化合物より炎症発癌モデルを用いた発癌抑制作用の判定に移行する.
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