DNA損傷によって惹起される細胞死(アポトーシス)では、がん抑制遺伝子であるp53がその中心的な働きを担っており、中でもSer46のリン酸化はアポトーシス誘導に必須と考えられている、我々は世界に先駆けてSer46キナーゼとしてDYRK2を同定することに成功した、しかしその細胞内制御は多くが不明であった。そこでDYRK2の機能解析を進めたところ、DYRK2はATMによって制御されていることが判明した。具体的には、DNA損傷に伴ってATMはDYRK2のThr33とSer369をリン酸化し、DYRK2を活性化するだけでなく、DYRK2の核内での安定化にも寄与していることが明らかになった。さらにDYRK2は核内にも存在するが、MDM2によって恒常的にユビキチン化され分解されていること、DNA損傷後ATMによるThr33のリン酸化によってMDM2がDYRK2から解離し分解が抑制されることを見いだした、そしてこの制御がDNA損傷におけるp53依存性アポトーシス誘導に本質的なステップであることが示された、以上の結果から、DYRK2は細胞質だけでなく核にも存在しているが、核内DYRK2はMDM2によって恒常的に分解されており、DNA損傷によってATMによるリン酸化を受け核内で安定化し活性化され、p53をリン酸化しアポトーシスを誘導するというモデルを提唱した。今後は、根本的な課題として、p53のSer46がリン酸化されるとどのようにアポトーシスを誘導するのかについて、その詳細なメカニズムの解明に軸足を移す予定である。
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