研究概要 |
我々は, glycogen synthase kinase 3β(GSK3β)が癌細胞の生存・増殖を維持・推進するという, 本酵素に関する従来の理論や知見から予測されていなかった「がん促進機能」を発見した. 本研究では. 消化器がんを中心にGSK3βの病的作用や本酵素阻害に基づく制がん効果の実証, その分子細胞メカニズムの解明とともに, 本酵素の高精度活性検出系を考案・開発する. これによりGSK3β阻害の制がん理論を確立し, そのメカニズムに基づく新しいがん治療法や分子標的薬剤の開発, ならびに本研究から派生する新規がん分子標的の探索に寄与する知的・技術的基盤を創出する. 本課題を通じて, GSK3βが媒介する未知のがん化シグナルの解明とがん医療に貢献することを目指す. 1. 各種消化器がんにおけるGSK3βの発現, 活性と病的作用の検証 消化器(胃,大腸, 膵, 肝)がんと神経膠芽腫ではGSK3βの過剰発現や酵素活性の亢進と調節異常ががん細胞の生存・増殖を促進し, アポトーシスを抑制することから, これらのがん種に共通するGSK3βの病的作用を明らかにした. 薬理学的投与量のGSK3β阻害剤とGSK3βのRNA干渉は, 正常細胞には何ら影響を及ぼさなかった. 2. GSK3β阻害による制がん効果の検討とその分子メカニズムの解明 小分子GSK3β阻害剤は特定のがん抑制分子経路の活性化を介して, 培養がん細胞の生存と増殖を抑制し, アポトーシスを誘導することを明らかにした. 3. 既存の抗がん治療との併用効果 難治性の膵がんと神経膠芽腫を対象に検討した. GSK3阻害剤はこれらの培養がん細胞の抗がん剤(塩酸ゲムシタビン, temozolomide, ACNU)や放射線感受性を高めることが観察された. 4. 担がん動物モデルを用いたGSK3β阻害に基づく治療試験 2種類のヒト大腸がん細胞(SW480, HT-29)をヌードマウスに移植し, GSK3β阻害剤の腫瘍増殖に対する効果を検討した. その結果, 同阻害剤は容量依存的に移植腫瘍の増殖を5-10週間にわたって抑制した. 治療後の移植腫瘍ではアポトーシスが誘導され, 増殖期細胞分画が減少していた. GSK3β阻害剤を薬理学的投与量の範囲で, 実験動物に5-10週間, 腹腔内投与しても有害事象は観察されなかった. 以上の結果は, GSK3β阻害によるがん治療法の臨床応用の可能性を支持するものである.
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