研究概要 |
平成20年度に引き続き、がんのシステムバイオロジー研究に用いられる各種ケミカルプローブの創出とこれを基盤にした多元的化学療法の実践のための多重標的創薬研究を実施した。 GPR54受容体アゴニストFTM080にペプチドミメティクスを適用することにより生体内安定性を向上した誘導体FTM145について、同一化合物による多点創薬標的制御を指向した研究を展開した。腫瘍部位での高発現が報告されているマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は、kisspeptin類の分解に関与することが報告されている。MMPに対する阻害剤としての応用を視野に入れ、FTM145等のMMP阻害活性を評価したものの、期待された阻害活性は認められなかった。一方、kisspeptin類について各種神経ペプチド受容体に対する選択性を評価したところ、10残基程度のGPR54アゴニストがneuropeptide FF受容体(NPFFR1、NPFFR2)を活性化することを見出した。 転移性腫瘍細胞での高いレベルの発現が報告されているCXCR4受容体について、CXCR4アンタゴニストT140から誘導した蛍光プローブが膀胱癌細胞株および動物モデルの腫瘍部位検出に有用であることを明らかにした。また、強力なCXCR4拮抗活性を示すFC131のさらなる構造最適化研究を展開し、複数のペプチド結合が生物活性に不可欠であることを明らかにした。T140誘導体およびFC131は、CXCR4の内因性リガンドであるSDF-1が結合するもう1つのケモカイン受容体CXCR7に対する受容体結合阻害活性を示さず、CXCR4特異的拮抗剤であることが判明した。このため、CXCR7受容体に対する新規選択的リガンドの探索を目的として、8,000種類以上の化合物ライブラリーのスクリーニングを実施し、中程度の受容体結合阻害活性を示す複数の化合物を同定した。 さらに、細胞分裂のG2/M期において中心体の配置に関与するキネシンEg5に対して強力な阻害活性を示すカルバゾール誘導体を見出し、その構造最適化研究に有用な化学合成法を開発した。
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