ヒトグループ1CD1分子(CD1a、CD1b、CD1c)は、糖脂質抗原をキラーT細胞に提示する新しい抗原提示分子として機能する。がんに対する抗原特異的免疫機構は、従来より明らかとなっているがんペプチド特異的MHC依存性免疫経路だけでなく、がん糖脂質抗原特異的グループ1CD1依存的免疫経路との総和として成立すると考えられる。実際研究代表者らは、ヒト肺がん細胞の一部がCD1a分子を発現し、これを認識してがん細胞を傷害するCD1a拘束性キラーT細胞の存在を実証してきた。そこで、この新しいがん制御機構の解析基盤の確立を目指した研究を展開した。まず、糖脂質スルファチドがCD1a提示抗原であると同時に、多くのがん細胞が異所性に過剰産生する自己糖脂質であることに着目し、CD1aトランスジェニック・スルファチドノックアウトマウスを作製し、免疫解析を進めた。まずCD1aの発現は、未熟胸腺細胞と皮膚ランゲルハンス細胞に特異的に認められ、ヒトにおける発現分布と同様であった。このマウスにスルファチドを免疫し誘導されるスルファチド特異的T細胞応答をインターフェロンガンマエリスポット法により解析したところ、微弱ながらも特異的な応答が観察された。今後のがん糖脂質ワクチンの開発を視野に、明瞭な応答を誘導するための免疫方法の改良が必要と考えられた。これまでグループ1CD1提示脂質抗原の有効な免疫手法が確立されていないことから、結核菌糖脂質抗原(グルコースモノミコール酸)をモデル分子としたリポソームの作製と解析を行った。その結果、オクタアルギニンとリン脂質、コレステロールを主体としその組成を最適化することにより、効率的に樹状細胞に取り込まれ、CD1分子を介した免疫応答が誘導できることが明らかになった。以上の結果より、がん糖脂質特異的なT細胞応答の解析基盤が確立された。
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