多くの新しい抗癌剤が予想外の副作用のため、臨床試験の途中で開発が中止されている現状から、別の疾患治療薬として使用されている既存薬を抗癌剤として応用する研究が注目されている。疫学調査から、アスピリンに代表される非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の長期服用により、癌の発症リスクが大きく低下することが知られているが、そのメカニズムはほとんど理解されていない。本研究で我々は、癌細胞において、NSAIDsによる各クロージン(全部で24種)の発現変化を検討した。その結果、NSAIDsがクロージン2の発現を抑制することを見出し、その分子メカニズムを検討した。その結果、βカテニンの分解が重要な役割を果たしていることを見出した。また、過剰発現プラスミドなどを用いて、その発現変化がNSAIDsの抗癌作用(運動性抑制、増殖抑制、アポトーシス誘導、浸潤抑制など)に寄与しているかを調べた。その結果、この発現変化が、NSAIDによる浸潤抑制において重要な役割を果たしていることを見出した。一方、NSAIPsによるアポトーシス誘導機構において、CHOPとミトコンドリアを繋ぐ因子の検索を行い、その全体像の解明を目指した。またさらにヒトの全遺伝子を含むDNAチップを用いて、NSAIDsが誘導する遺伝子の大規模な網羅的同定を行い、多くの興味深い遺伝子発現変化を見出した。今後は本研究から明らかになったNSAlDsの抗癌作用機構を基に、NSAIDs化合物ライブラリー(現在700種ほどである)から、抗癌作用が強いと予想されるNSAIDsを選択する。
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