研究課題
単細胞性緑藻クラミドモナスは「緑の酵母」とも称され、分子遺伝学的な解析に適したモデル生物である。古くより、概日リズム現象が研究されてきたが、時計の分子機構に関しては全く分かっていなかった。我々はホタルのルシフェラーゼ遺伝子を葉緑体ゲノムに組み込み、生物時計の運行を生物発光リズムとして測定する生物発光リズム系をクラミドモナスで開発した。当初、リズムの波形が詳細な解析に耐えるほど明確ではなかったが、この発光レポーター株をいくつかの野生型株と掛け合わせることにより、極めて明瞭で再現性に富んだリズム波形を示す株を得ることに成功した。我々は、この株を親株に用い、薬剤耐性マーカー遺伝子を遺伝子移入して核ゲノムにランダムに挿入し、発光リズムに異常を示す突然変異体を100個あまり分離し、時計遺伝子と時計関連遺伝子を合わせて30個同定し、その網羅的クローニングに成功した。時計遺伝子の一部は高等植物の時計タンパク質あるいはその関連タンパク質と共通のモチーフを持つことが判明し、緑藻から高等植物に至る植物における時計の進化の一端を解明することができた。すなわち、藍色細菌のkai生物時計は原始藍色細菌が真核細胞に共生して葉緑体となる進化の過程で完全に失われた。真核細胞から植物細胞の進化の過程で藍色細菌のkai時計とは全く異なる植物時計を獲得した。この植物時計は動物細胞の時計とは全く異なっている。クラミドモナスの時計遺伝子や時計関連遺伝子はある種の緑藻や紅藻には存在しないことから、藻類の世界でも時計は異なる進化を遂げてきたと思われる。このように植物界における時計の進化は極めて多様な道筋をたどったことが推定され、今後実験的に解明されるべき重要な課題である。(725字)
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http://www.gene.nagoya-u.acjp/~ishiura-g/index.html