多細胞生物体が構築されるためには受精卵がプログラム通りの細胞分裂、細胞分化、形態形成等を行なう必要があるが、プログラムを構成する遺伝子ネットワークは複雑なため、単純な遺伝子破壊法による解析だけでは発生プログラムの理解はむずかしい。温度感受性変異株は、多細胞体の構築という複雑な生命現象における遺伝子ネットワークの解明に取り組む良い方法論となる。そこで本研究は、線虫の温度感受性胚発生変異株を網羅的に取得し、この温度感受性変異株ライブラリーのデータベースを構築し、有用な研究基盤を創出することを目標としている。 本研究はこれまでに変異株のデータベース:WorTS(Worm TS mutant datahase)を構築し、公開している。しかし、変異株の原園遺伝子を同定する遺伝子クローニングに数ヶ月を要するため、この遺伝子クローニング過程が網羅的な変異株ライブラリーのアーカイブ化の律速段階となっている。そこで、当研究課題では次世代シーケンサーを用いて変異株の遺伝子変異をゲノムレベルで直接的に同定するという方法で、ハイスループットの遺伝子クローニング法の開発に取り組んだ。 初めに予備実験として、線虫の標準株(N2)の亜種であるCB4856株(Hw)ゲノムの合計約2MBの領域を20kBのフラグメント100本に分けてPCR増幅し、次世代シーケンサーSolexaで解析した。N2株ゲノムの参照配列とSolexaで得られたHw株のゲノム情報をMapVeiw上で比較することで、このシステムで検出できたSNPを抽出した。その結果、Solexaで充分に一塩基置換の変異を解析可能であることが分かった。 これらの結果から、当研究課題で取り組んだ次世代シーケンサーを用いたハイスループット遺伝子クローニング法は、網羅的な温度感受性変異株のデータベース化のための有効な方法論となることが示唆された。
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