本年度は、これまでに我々が確立した内在性RaclおよびRaplの活性化部位の可視化技術の組織への応用を目指して研究を推進した。まず、骨格筋細胞におけるインスリン刺激に応答した糖取り込み誘導のシグナル伝達系におけるRaclの機能解析を進めた。これまでに筋細胞株L6を用いて解析を進めてきたが、今年度はマウス骨格筋を用いて解析を進めた。骨格筋特異的raclノックアウトマウスとコントロールマウスにおいて、蛍光標識したGLUT4インディケーターを用いたインスリン応答性のアッセイを行った。その結果、骨格筋特異的raclノックアウトマウスにおいては、インスリンを尾静注することによって誘導されるGLUT4の細胞膜移行が完全に抑制されたが、活性型変異体Raclによる移行は阻害されなかった。したがって、インスリン刺激した際のマウス骨格筋での糖取込みの誘導において、Raclの活性化が必要十分であることが強く示唆された。次に、Raclの活性化部位の可視化技術をこれらのマウスの骨格筋に応用し、インスリン応答性のRacl活性化部位を同定するための条件検討を行った。一方、Raplに対するGEFであるRA-GEF-1が胎生期の血管形成に関与する可能性がこれまでの我々の研究から示唆されてきたが、今年度は、RA-GEF-1ノックアウトマウスと野生型マウスの尿膜におけるRaplの活性化状態を比較、検討した。その結果、ノックアウトマウスの尿膜の血管内皮細胞においては、Raplの活性化が有意に低下していることが明らかとなり、RaplがRA-GEF-1の下流で胎生期の血管形成を制御している可能性が示唆された。
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