研究概要 |
細胞増殖・分化を司る上皮成長因子(epidermal growth factor: EGF)-Ras-MAPKシステムにおいて、(1)EGF受容体の活性化増幅、(2)ERK(MAPK)活性化に見られる双安定性という2つの非線形応答現象を、それぞれセミ・インタクト細胞内および大腸菌内に再構成し、1分子計測、可視化計測によって非線形性の性質と、非線形性を生むメカニズムを解析することを目的として研究を行い、本年度は以下の結果を得た。 (1)EGF受容体(EGFR)の活性化反応の解析 EGFRの主要な脱リン酸化酵素は、PTP-1BとCdc25である。再構成系に脱リン酸化反応を組み込むため、両蛋白質のGFP融合体を作成した。EGFR-GFPを発現するCHO-K1細胞で1分子計測によりEGFRの会合数分布と会合体の空間分布計測を行い、2量体を単位とする高次会合体が形成されているという結果を得た。会合ダイナミクスをMonte-Carlo法により計算するシミュレータを構築した。このシミュレータを用いて実験データ(EGFRの会合体分布)の再現を試みている。その後、EGFRのリン酸化・脱リン酸化反応を組み込む。 (2)ERKの活性化反応の解析 MAPKシステムの大腸菌内再構成のため、恒常的活性化型MEK、MKP3およびERKを発現制御可能なプロモータ下流へクローニングした。各々の蛋白質には、発現量確認と分子間相互作用計測のための蛍光蛋白質タグを付けている。大腸菌内でERKの発現は確認されたが、MEK, MKP3の発現がうまくいっていない。プロモータの改良中である。 ERKの活性化反応を解析するためのシミュレータを構築した。反応ゆらぎを含む計算で、分子数を変化させることにより、2相性を示す入力(MEK濃度)範囲が変化することが観察された。現在、活性化ダイナミクスの解析を行っている。
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