研究概要 |
細胞増殖・分化を司る上皮成長因子(epidermal growth fctor : EGF)-Ras-MAPKシステムにおいて、(1)EGF受容体の活性化増幅、(2)ERK(MAPK)活性化に見られる双安定性という2つの非線形応答現象を、それぞれセミ・インタクト細胞内および大腸菌内に再構成し、1分子計測、可視化計測によって非線形性の性質と、非線形性を生むメカニズムを解析することを目的として研究を行い、以下の結果を得た。 (1) EGF受容体(EGFR)の活性化反応の解析 EGFR-GFPを発現するCHO-K1細胞でEGFRの会合数分布と会合体の空間分布計測を行い、2量体を単位とする高次会合体が形成されていることを予想する結果を得た。分子間相互作用を直視するため、光感受性の蛍光蛋白質を融合したEGFRでPALM法により20nm程度の空間分解能で1分子検出を行う方法を開発した。 (2) ERKの活性化反応の解析 ERK,および活性化MEKとMKPを組み込んだ発現プラスミドを構築し大腸菌で発現を行った。3種の蛋白質の発現を10倍程度制御し、リン酸化ERK抗体によるWestern blotでMEK発現依存的にERKの2重リン酸化が亢進し、MKPの強発現によりリン酸化が阻害されることを確認した。決定論的および確率的な計算法によるERKリン酸化反応解析を行った。決定論的な連立微分方程式モデルにおいては、ERKリン酸化状態の双安定性が予測できた。確率的な反応シミュレータで、細胞サイズが0.2μm^3以下に減少すると双安定性は消失するが、哺乳類細胞レベルの大きさでは、リン酸化レベルは100時間を超えて安定に維持されることが予想された。
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