本研究課題では、VLR遺伝子再編成がどの様に制御されているのかについて調べるため、ヌタウナギのVLR遺伝子(VLR_A及びVLR_B)の再編成をsingle-cell PCRを用いて解析した。ヤツメウナギの遺伝子と同様、再編成前のヌタウナギのVLR遺伝子は5'及び3'定常領域とその間に存在する介在配列からなっており、リンパ球の分化の過程で、周辺に多数存在するgermline LRR遺伝子セグメントからいくつかのセグメントが選ばれて持ち寄られ、介在配列と置き換わることにより機能型遺伝子が創出される。再編成前の遺伝子と再編成後の遺伝子はPCRにより同時に増幅することができる。単離したリンパ細胞を用いてsingle-cell PCRを行った結果、1つのリンパ細胞はVLR_A、VLR_Bのどちらか一方の遺伝子しか再編成しておらず、これら2つの遺伝子の再編成は相互排他的に起こっていることが明らかとなった。また、遺伝子再編成においてalleleがどの様に使われているのかについて、定常領域遺伝子座に見られるsingle nucleotide polymorphisms(SNPs)を利用して調べたところ、ほとんどの場合でどちらか一方のalleleだけが完全に再編成し、機能型遺伝子になっていた。従って、VLR遺伝子系においても、Ig型の抗原受容体遺伝子と同様、allelic exclusionが基本的に成立していると考えられる。また、現在のところVLR_A遺伝子に関して、可変領域が同じ配列であるものが複数見つかっている。遺伝子再編成により偶然に同じ可変領域の配列が作り上げられる確率は極めて低いので、これら同じ可変領域の配列を持つ細胞は、VLR遺伝子を再編成した後、クローナルに増殖したものであると考えられる。これらの結果は、無顎類においてもリンパ球のclonal selection/expansionが重要な役割を果たしていることを示唆している。
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