研究課題
シロイヌナズナの遺伝子トラップ系統を用いた昨年までの解析から、「構造遺伝子配列がゲノムDNAに挿入」されると、近傍のゲノム領域ではクリプティックプロモーターの活性化や転写開始点の誘導が生じることが強く示唆された。本年度は、この可能性を実験的に検証するため、キメラプロモーターと形質転換植物によるモデル実験を行った。まず、野生型プロモーターを基にして、コア領域だけを3回重複させた改変型プロモーターを作成し、レポーター遺伝子に連結した。このキメラ遺伝子を植物に形質転換し、植物体中での転写開始点をcap-trapper法によって解析したところ、野生型プロモーターでは調節領域の直下に出現していた転写開始点が、改変型プロモーターでは、3つあるコア領域のうち、最もコード配列近い、最下流のコア領域に移動していた。そこで、転写開始複合体の形成位置が実際にどうなっているのかを、RNAポリメラーゼやTBPに対する抗体を用いたクロマチン免疫沈降法によって解析したところ、確かにコード領域の最近傍のコア領域に移動していることが示された。上記の知見は、ゲノム上での転写開始位置は上流のプロモーター配列によって一義的に決定されるわけではなく、プロモーター領域とコード流域との相互作用によって決まることを意味している。言い換えると、コード領域自体がプロモーターの広義の構成要素になっている、ということである。これは真核プロモーターについての従来の見方を大きく変えるばかりではなく、「ゲノムのシャフリング」や「構造遺伝子の挿入」がどのようにして「新しいプロモーターの出現」を誘導するのか、という本研究課題の最も本源的な問いに、重要な手掛かりを与えてくれる。次年度以降は、構造遺伝子領域が上流近傍のコアプロモーター領域を活性化する分子的なメカニズムについて解明を進める。
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Plant J 57
ページ: 207-219
Plant J (印刷中)
うみうし通信 60
ページ: 10-11
http://ppdb.gene.nagoya-u.ac.jp