本研究では、胚発生、とりわけ神経系と感覚器の発生に重要な役割を果たしているグループBのSox遺伝子ファミリーに注目して、(1) 遺伝子の重複・倍加にともない個々の遺伝子に生じた発現調節とタンパク質機能の多様化、(2) 動物種の多様化の過程で保存されている発現調節機構と種特異的な調節機構、(3) 発現調節の多様化と発生様式の違いとの関連、について、ゼブラフィッシュ・ニワトリ・マウスを用いて動物間での比較を行い、脊椎動物における系統発生のゲノム基盤を探る。ゼブラフィッシュにおけるB1 soxの機能喪失解析から、発生初期のノックダウン胚の表現型が、spg変異体(OCT3/4をコードする遺伝子に変異を持つ)の表現型と極めて類似した部分があること、また共通のターゲットとなる遺伝子も数多く存在することが分かった。哺乳動物においては、ES細胞の幹細胞性の維持や、マウス胚発生の初期過程でSOX2-OCT3/4複合体が重要な役割を持つことが示されている。魚類と哺乳類とでは、初期発生の様式に様々な違いが見られるが、重要な共通要素としてSOX2-OCT3/4により制御されるカスケードが有ることが分かった。また、Sox2と類似した発現を示すニワトリSox3の発現調節機構を調べるため、その周辺約230kbのゲノムにおいてエンハンサー活性を持つ領域を探索したところ、12断片が中枢神経系あるいは感覚器の原基でエンハンサー活性を示した。このうち10の断片は、ヒト、マウス、カエルで保存された配列を含んでいた。このうちSox3 NP-1は、後方神経板で活性をもつSox2 N-1エンハンサーに類似した活性を示し、さらに制御配列の解析から、共通のシグナル系による制御を受けることが示唆された。
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